【見解】リニア中央新幹線は「夢の技術」か?
【見解】リニア中央新幹線は「夢の技術」か?
-リニア中央新幹線の建設を凍結し、持続可能な社会へ向けての徹底した議論を
2014年1月30日 緑の党グリーンズジャパン運営委員会
昨年9月、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)は、リニア中央新幹線の東京―名古屋間の詳細なルートを公表し、本年着工を目指しています。民間企業による大規模事業に対し、政府も建設用地取得に関わる不動産取得税や登録免許税を非課税にする税制改正などで後押ししています。
この基本計画は40年前に決められたもので、500キロ以上での走行を可能にする超電導磁気浮上技術は、かつて「夢の技術」と呼ばれました。しかし、大都市間の移動を1時間短縮するために、南アルプスの自然破壊をはじめ、地域社会に大きな負荷を伴う事業の推進には、大きな問題があります。
まず、ルートに選定された南アルプス地域は、ライチョウやクマタカなど、貴重な野生動物が多く住む地域として知られています(注1)。この貴重な原生自然を守るために、これまで多くの人たちの保全活動によって大規模なトンネル工事や道路建設が避けられてきました。今も建設予定ルートにおいて絶滅が危惧されている鳥類や保護対象となっている動植物がいくつも確認されています。しかし、リニア中央新幹線の8割以上を占める長大なトンネル工事によって、白神山地と並ぶ原生の自然と生態系が、22㎞のトンネルと何本もの斜坑建設で破壊されるのです。
また、これらのトンネルや斜坑は第1級の活断層である糸魚川―静岡構造線をはじめ多くの活断層を横切ります。中央構造線は日本最大の断層線谷で、複数の複雑な地質構造線が並走し、断層破砕帯崩落が見られる地震多発エリアです。日本で1番隆起が激しく、1年で5~6㎜盛り上がっており、このルートのかなりの部分が南海トラフによる地震帯に入っています。工事中も、そして完成後も、地震などによる落下・崩落事故の危険性がつきまといます。工事による残土処分自体も問題です。また、大井川水系においては2トン/秒の減水が公表され、63万人の上水道などに影響するため、静岡県内9市町村長が懸念を公表しています。すでに山梨実験線建設により3集落で地下水が枯渇しており、トンネル工事が山間の住民の生活を脅かすことは必至です(注2)。
大深度地下(東京では40メートル)に直径15~20メートルものトンネルを通し、一本のトンネルの中で上下線が猛スピードですれ違うことが日常となれば、電磁波や騒音・振動による乗客や沿線住民への健康被害などのおそれもあり、「想定外」の事故は深刻な結果を招きます。建設予定地周辺では建設そのものの中止を訴える声が相次ぎ、自治体の意見書も複数上げられています。
リニアによって東京・名古屋・大阪の3大都市を1時間以内で結び、世界で類のないメガ都市をつくりだすならば、東京一極集中はさらに進みます。地方の自立性はさらに失われ、中央への従属は一層進み、地方は衰退します。
JR東海はリニアの消費電力を東海道新幹線の3倍とし、同社の会長・葛西敬之氏は、「原発継続しか日本の活路はない」と発言しています。電力浪費のリニアは時代に逆行しており、原発の再稼働と一体のものなのです。
名古屋まで5.4兆円、大阪まで9兆円もの建設費はJR東海が自力で捻出するとしていますが、今後の人口減 (特に実際に交通機関を利用する稼働年齢層)社会の中で、維持費なども含めた採算性も疑問です。同社の山田佳臣社長は「リニアだけでは絶対にペイしない」と明言しており、いずれこれらのツケは利用者ばかりでなく広く納税者、そして次世代に押し付けられるのです。
3.11の大震災と福島原発事故は、環境を破壊し電力を浪費するリニアのような技術ではなく、地域や自然と共生できる、持続可能な社会を可能にする技術の大切さを教えてくれました。私たちはもはや原子力発電に頼る過大な電力を要するような消費生活、速ければよいという交通手段を求めてはいないはずです。
日本列島の屋台骨である南アルプスに大トンネルを掘ってまで進める大事業が本当に必要で適正なものなのか、疑問です。この計画は凍結し、国土交通省は工事実施計画を認可するべきではありません。その上で、周辺住民や利用者、環境保護団体などさまざまな当事者・関係者、さらに広く市民を加え、これからの持続可能な社会・経済・交通のあり方に向けた徹底的な議論を巻き起こしていくことこそが必要です。
注
- リニア中央新幹線の建設予定ルートには絶滅危惧種が今もいくつも確認されている。例えば環境評価書には記載のないレッドリストのミゾコイ(サギ科・長野県)があらためて確認された。静岡県では県条例で保護対象になっているホテイランを含む稀少6種が環境評価準備書で「一部保存されない可能性がある」となっている。
- 無数の水系・地下水系の切断には渇水と漏洩による影響が予想される。実際に山梨実験線建設により3集落で地下水の枯渇が判明した。環境評価準備書では大井川が毎秒2トンの流量減少とされ問題になっている。
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