【声明】ガソリン税暫定税率廃止問題―深刻な気候危機と未来への責任を踏まえた議論を
【声明】ガソリン税暫定税率廃止問題―深刻な気候危機と未来への責任を踏まえた議論を
2025年8月12日
緑の党グリーンズジャパン運営委員会
参議院選挙の結果を受けて与野党は、ガソリン税の暫定税率を年内に廃止することで合意し、秋の臨時国会での法案成立をめざして協議しています。しかし、これは国・自治体の財政に影響を与えるだけでなく、気候危機対策の点でも大きな問題です。
まず、私たちも、深刻な物価高において、特に低所得者層の負担を軽減することは必要だと認識しています。しかし、気候変動も人の生命にかかわる重大な問題です。
日本は「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」目標を掲げていますが、暫定税率を廃止した場合、CO2排出量は1年間だけで1500~1600万トン増えると試算され(※1)、カーボンニュートラル目標の達成を阻害し、気候対策に明らかに逆行します。また、富裕層にも恩恵が行き渡り、本当に必要としている低所得者への支援としては限界があり、環境に配慮する生活をする人ほど恩恵が小さくなるため、社会的公正にも反します。
さらに、国や地方財政への影響に関しても議論が不足しています。全国知事会も、地方税収の減収を懸念し、恒久的な財源の確保を求めて提言しています(※2)。
こうした問題について、一部のマスコミも「脱炭素と財源忘れるな」「数々の課題を置き去りにして、単純な廃止へ突き進むのは無責任だ」と批判しています(※3)が、国会での議論はほぼ皆無で、参院選でも無視されました。私たちはこの状況を深く憂慮します。
そもそも日本のガソリン価格は、OECD35ヶ国中、アメリカに次いで2番目に低く、ガソリンの税負担額も8番目に低い率となっています(※4)。
また、現在、カーボンプライシングとしてCO2排出量取引が導入されていますが、炭素税は排除され、温暖化対策税289円/CO2トンとなっており、スウェーデン(19000円)、フランス(6200円)、英国(2900円)(以上概算)などに比べて極端に低くなっています(※5)。このままでは日本産品をEUへ輸出する場合、今後、炭素国境調整措置(※6)という関税がかけられる可能性も否定できません。
環境対策の観点からは、ガソリン税はむしろ強化する必要があり、暫定税率の廃止ではなくその部分の組み換えも含めて「炭素税」を強化し、その税収を環境対策やエネルギー貧困対策に優先的に充てることこそ必要です。
その場合、車の利用が不可欠の業種・地域・利用者に対する配慮や支援はもちろん必要です。電気自動車(EV)への転換支援と充電インフラの大幅な増設、公共交通の充実、電力需要を賄うための再生可能エネルギーの拡大など、根本的な転換に本腰を入れるべきです。低所得者層に対しては、交通にかかわる負担軽減にとどまらず、給付付き税額控除など、生活そのものを支える施策も必要です。人手不足が深刻化する運輸業界では、都市間輸送を鉄道輸送で代替するような支援措置も必要です。
「地球沸騰化」とされる事態がますます進行し、気候崩壊のティッピングポイントが間近であるにもかかわらず、ガソリン税減税やガソリン補助をいつまで続けても、気候危機やエネルギー問題は解決しません。対策の先送りは、人類の暮らしや命の基盤を不安定化させ、結局のところ経済損失を拡大させることになります。
国際社会と未来世代への責任を踏まえ、ガソリン税問題や交通政策にとどまらず、再生可能エネルギーの爆発的拡大、住宅の断熱改修支援なども含むエネルギー貧困対策を重視した施策、公正な税制や社会保障全般にわたる議論が求められます。経済成長よりも気候対策を優先し、脱成長の選択肢をも組み込む必要もあります。
社会・政治運動の領域でこうした議論が決定的に不足・欠如している中、緑の党は気候危機対策の重要性をあらためて強く訴え、問題提起を続けます。
※註
1:環境省「税制全体のグリーン化推進検討会」第3回(2017年12月)(https://www.env.go.jp/policy/tax/conf/conf01-16.html)の資料「揮発油税等の当分の間税率による環境効果の分析について」では、2018年から暫定税率を廃止した場合に2030年時点での運輸部門の排出量が1635万トン増加すると試算していた。また、現在のガソリン価格から暫定税率分を引くと150円程度となり、同程度の価格だった時期と現在のガソリン消費量の差を増加分の目安として、ガソリンのCO2排出係数を用いて試算すると、増加量は約1500万トン程度と見込まれ、いずれの値も現在の排出量の1.5%程度増加させることになる。
2:全国知事会「地方税財源の確保・充実等に関する提言」(2025年)https://www.nga.gr.jp/committee_pt/item/02_siryou.pdf
3:2025年8月3日 朝日新聞(社説)「ガソリン減税 脱炭素と財源忘れるな」https://www.asahi.com/articles/DA3S16273853.html?iref=pc_rensai_long_16_article
4:財務省資料 OECD加盟国(38ヵ国)におけるガソリン1ℓ当たりの価格と税の比較 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/133.pdf
5:各国の炭素税 環境省資料「諸外国におけるカーボンプライシングの導入状況等」 https://www.env.go.jp/content/000209895.pdf
5:EUが2023年から導入した措置で、輸入品に対して国内の炭素価格の差額分を課すもの。https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/feature-02.html
※参照:2024年6月1日 緑の党グリーンズジャパン運営委員会声明「脱炭素に逆行するガソリン補助金の継続に反対します」(https://greens.gr.jp/seimei/36487/)
声明全文→https://greens.gr.jp/uploads/2025/08/S_gass-1.pdf