【意見】エネルギー基本計画(案)に対する意見
緑の党グリーンズジャパンは、「エネルギー基本計画(案)に対する意見」パブリックコメントについて、以下の意見を提出しました。
■エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620221018&Mode=0
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【緑の党グリーンズジャパン意見】
【1】2030年温室効果ガス削減目標を70%とすべき
「2050年カーボンニュートラル」を表明したことは一定評価するが、2030年に2013年比46%~50%削減では、日本が排出できる炭素予算を上回ってしまい、科学が要求する1.5℃目標に到達できない。
歴史的に積み重ねてきた CO₂排出量の膨大さに対する責任や、途上国も含めたグローバルな社会的公正の観点から2030年までに2013年比で70%(1990年比65%に相当)以上の温室効果ガス削減を目標とすべき(※1)(※1´)。(ドイツ政府は総選挙前の時点で2030年に1990年比で65%、2040年に88%削減目標を掲げている)
【2】2030年までに石炭火力発電所を全廃すべき
第6次エネルギー基本計画案(以下、計画)では、 2030 年に石炭火力発電を約19%利用とあるが、最新技術を用いてもなお、天然ガス火力発電の2倍近くのCO2を排出する石炭火力は遅くとも2030年までに全廃すべき(※2)。
計画P36にある「現時点で石炭が経済性に優れたエネルギー源である」との認識を改めるべき。経産省内でも2030年の発電コストが太陽光発電が最安となる試算が示されている(※3)。
石炭火力発電はCO2だけなく、PM2.5、NOx、SOx等の大気汚染によって健康被害をもたらすという認識を持つべき(※4)。
【3】原子力発電は全基即時停止すべき
計画には「S+3E(安全+安定供給・経済性・環境)」が謳われているが、東電福島第一原発事故によって、原子力発電事業におけるS+3Eは全て破綻していることが明らかになった。にもかかわらず、計画では現在6%程度の原発を20~22%程度にするとあり、老朽原発の再稼働を前提としており、非現実的で容認できない。原発稼働が増加しても、CO2排出は減らなかったことから、原発はCO2削減に貢献しないことを認めるべき(※5)。
P9にある「ALPS処理水」は除去できない核種が残り、生態系への影響も懸念されるため、海洋放出はもってのほか。地元漁業関係者や別の処理方法を提案している専門家との議論を重ね、より安全な処理方法を採用すべき。
同P9にある「帰還の強制」は許されない。放射能汚染の情報を公開し、帰還する、しないに関わらず生活の補償を行うべき。
【4】水素・アンモニア・CCS・カーボンリサイクルなどの技術開発の優先順位を最下位にすべき
石炭・石油・天然ガスといった化石燃料由来の水素(ブルー水素)、アンモニア発電はCO2削減になるどころか、CO2排出を増やす(※6)(※7)。再生可能エネルギーによって作ったグリーン水素(R水素/クリーン水素)であっても、再生可能エネルギーによって発電した電気で水素をつくり、その水素で発電することは効率的とはいえない。CCSにおいてもオーストラリアで大規模なCO2漏洩事件が起きた(※8)。そして、国際的な共同研究も始まったばかりである(※9)。これら不確実な技術がたとえ成功したとしても実用化までには2030年を過ぎる可能性が高く、間に合わない。これらのことから、水素・アンモニア・CCS・カーボンリサイクルなどの技術開発については、最も低い優先順位の計画として位置づけるべき。
【5】エネルギー政策の実施主体、計画の作成過程を抜本的に見直すべき
エネルギー政策は生活、経済、産業、財政、税制に関連する大きなテーマであるので、経済産業省内の資源エネルギー庁でエネルギー政策を実行するのは無理がある。政府内に環境省、農水省、経産省、国交省、財務省などが横断する組織をつくり政策実施をする必要がある。
エネルギー基本計画作成の際に、気候危機の時代を生きることになる若者の意見が入っていないことは、後述の「気候正義」の観点から見ても問題。イギリスやフランスでは、くじで無作為に抽出した市民を実際の人口構成に沿うように集めた「市民会議」を設置し、気候変動対策を検討している(※10)。エネルギー基本計画作成においてもこのような市民の意見が反映される方法を採用すべき。
【6】公正な移行を実施すべき
脱炭素社会に向かうなかで、石炭関連産業での失業や地域の衰退などの負の影響が生じる。これらの影響を回避するために、労働者、経営者、企業、自治体などのステークホルダー間の率直な対話の機会を設け、グリーン産業などへの転職支援、訓練と再教育、および他のセクターへの移行のための支援、地域社会への支援を行う「公正な移行」政策が様々な国や地域で実施されている(※11)。日本においても、鉄鋼、電力、自動車、セメント、電気機器、 石油・石油化学、石炭関連の産業、およびこれらの産業や労働者に依存している地域経済の転換に向けた「公正な移行」政策を実施すべき。
【7】脱炭素社会のプラスの効果も情報公開し、ダウンシフト(減速最適化)を進めるべき
経済産業省は「再エネを50%に増やした場合、価格が約2倍になる」との試算を発表したが(※12)、このような情報だけが拡がることは市民の脱炭素社会への意欲を低下させる。断熱性能の高い住宅だと、光熱費は二分の一となり、ゼロエネルギーの建物(ZEH/ZEB)では実質無料となる。また、ヒートショックなどによる健康被害も抑制でき、自治体における医療費軽減にもつながる。生活におけるCO2排出を削減するためには、使い捨て商品、石油製品、肉食、ごみの焼却、24時間営業、自動車通勤、近距離の航空機利用、海外からの輸入などあらゆる活動を見直す必要がある。これらの取り組みに「我慢しなければならない」と感じる人もいるが、プラスの効果についても多角的に評価し、市民生活のダウンシフトを進めるべき。
特に自動車については、電化(EV化)によるCO2削減だけではなく、蓄電池資源としても脱炭素への貢献度が高いことから、普及率の目標を設定し実行していく必要がある。
【8】気候正義に基づくエネルギー政策、国際支援を実施すべき
気候正義とは「気候変動は先進国・富裕層・既得権益層・先行世代が生み出したもので、その影響による途上国・貧困層・将来世代などの不利益への責任を負うべき」という考え方だ。
世界には、大量の温室効果ガス排出を続けることを「気候犯罪(Climate Crimes)」、大規模な環境や生態系の破壊行為を「エコサイド(Ecocide)」として規定すべきという動きもある(※13)(※14)。
計画ではこの「気候正義」の考え方が全く欠落している。それどころか、石炭産業や原子力産業といった既得権益層が2030年以降も存在する余地を残し、気候犯罪、エコサイドというべき計画だ。
前述のとおり、エネルギー政策について各省が横断する組織をつくり、風水害対策が盤石でない途上国への支援、今後増加が予測されている気候難民の受け入れ、食糧不足・感染症・熱中症のリスクが高まる貧困層、気候不安症(※15)を抱える将来世代に対する政策を実施すべき。
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(パブコメ提出時、出典を記載するとエラーが発生して送信できなかったため、
実際の提出意見には出典を省いた状態で提出しています)
【出典】
(※1)(※2)緑の党グリーンズジャパン「地球の気候は非常事態!残された時間は8年」
https://greens.gr.jp/uploads/2020/04/kikokiki_leaflet_0420.pdf
(※1´) <計算式>
日本における温室効果ガス排出量の推移(1990-2019年度)https://www.jccca.org/download/13332 より
1990年度排出量は12.75億トン
2013年度排出量は14.08億トン
2013年度排出量(14.08億トン)を70%削減すると、(14.08×0.3=)4.2億トン
この4.2億トンは1990年度排出量(12.75億トン)の(4.2÷12.75=0.32)32%の量となることから、
(1-0.32=0.68)約70%の削減が必要となる。
(※3)NHK「2030年時点の発電コスト 太陽光が最安に 原子力を初めて下回る」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210712/k10013135341000.html
(※4)RIEF「石炭火力発電等の化石燃料焼却による大気汚染で、世界中で年450万人が早死。経済的損失額は一日80億㌦、年2兆9000億㌦(約320兆円)。日本の損失も14兆円強。環境NGOらが調査」
(※5)緑の党グリーンズジャパン「【論説】 原発はCO2対策に貢献しない-地球の未来を奪う石炭と原発から決別し、持続可能な社会への転換を」
https://greens.gr.jp/seimei/28870/
(※6)GigaZineサイエンス「クリーンなエネルギーとして注目される『ブルー水素』が環境を悪化させる恐れ」 https://gigazine.net/news/20210816-blue-hydrogen-replace-natural-gas/
(※7)「アンモニア発電…マスコミが報道しない問題点 このままではかえって温室効果ガスが増えてしまう」https://takagichi.com/%e4%b8%96%e7%95%8c%e3%81%af%e5%8c%96%e5%ad%a6%e3%81%a7%e3%81%82%e3%81%b5%e3%82%8c%e3%81%a6%e3%81%84%e3%82%8b/%e3%83%8b%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%81%aa%e5%8c%96%e5%ad%a6/%e3%82%a2%e3%83%b3%e3%83%a2%e3%83%8b%e3%82%a2%e7%99%ba%e9%9b%bb%e3%83%9e%e3%82%b9%e3%82%b3%e3%83%9f%e3%81%8c%e5%a0%b1%e9%81%93%e3%81%97%e3%81%aa%e3%81%84%e5%95%8f%e9%a1%8c%e7%82%b9/
(※8)RIEF「化石燃料の“クリーン化”で期待されるCCS技術、現状は機能不十分。シェブロンの西オーストラリア州の天然ガス事業。操業以来の5年間、ほとんどCO2を貯留できず。技術リスクを露呈」
(※9)経済産業省「『アジアCCUSネットワーク』が立ち上がりました」
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210622005/20210622005.html
(※10)「くじ引き」で参加者を抽選「気候市民会議」の狙いと成果とは?http://ictj-report.joho.or.jp/2105/sp04.html
(※11)気候ネットワーク「【事例集】公正な移行―脱炭素社会へ、新しい仕事と雇用をつくりだす―」
https://www.kikonet.org/info/publication/just-transition-report
(※12)東京新聞「再生可能エネルギー5割でコスト2倍の可能性 政府目標達成へ経産省が試算」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/104036
(※13)ユネスコ「Climate crimes must be brought to justice」
https://en.unesco.org/courier/2019-3/climate-crimes-must-be-brought-justice
(※14)毎日新聞「環境破壊=エコサイドは裁けるか 「第5の国際犯罪に」運動拡大」
https://mainichi.jp/articles/20210626/k00/00m/030/281000c
(※15)若者9割超が気候変動不安 「未来怖い」75%、政府批判も―10カ国調査
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021091800190&g=int