【談話】「黒い雨」訴訟-首相談話に強く抗議します

【談話】「黒い雨」訴訟-首相談話に強く抗議します

 

2021730

緑の党グリーンズジャパン

共同代表   中山均

 

広島への原爆投下後の放射性物質を含む「黒い雨」を浴びた原告らを被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を命じた広島高裁判決に対し、政府は上告を断念し、729日、判決は確定しました。

 政府の上告断念は当然でむしろ遅すぎました。私たちは、今年の広島原爆の日を間近に迎えて事態がようやく大きく動いたことを歓迎するとともに、原告や支えられたみなさまが重ねられたご努力や苦闘に心よりのねぎらいと敬意を表します。政府に対し、「訴訟への参加・不参加にかかわらず認定し救済できるよう、早急に対応を検討する」との方針を速やかに実現することを求めます。

 今回の首相判断は政権の浮揚策のためのパフォーマンスとの指摘もあります。状況によっては逆の判断もあり得たことを意味し、被害者の命や健康が首相個人の思い付きで軽々しく扱われているとすればきわめて遺憾です。

さらに許し難いのは、断念と同時に公表された首相談話です。談話では、被爆・被曝の影響を幅広く認めた高裁判決について「過去の裁判例と整合しない」「これまでの被爆者援護制度の考え方と相いれない」などとあげつらっています。

そもそも、現行の被爆者援護制度自体、国の財政難を背景に被害の矮小化を図り、被爆者や被曝地域の拡大を求める意見を切り捨ててきたきわめて不十分なものです(1)。政府や首相は「科学的根拠」をたびたび持ち出していますが、「科学的根拠」として政府が依拠するICRPの勧告もこれまで何回か見直され、比較的最近でも疾病によっては閾値の引き下げ(=影響をより厳しく見積もる)も行なわれています。「3.11」を踏まえて成立した「原発事故子ども・被災者支援法」ではその第一条で「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」と明言しています。

限定的な影響しかないとする政府や首相の固定観念に固執することこそ、きわめて非科学的であり、実態と乖離しているのです。今回の高裁判決を踏まえ、むしろ「これまでの被爆者援護制度」自体を根本から見直す必要があります。

被爆者の声や科学的事実を無視し、合理的な思考から逃げ、被害を矮小化し、被爆者の尊厳を二重三重に踏みにじる首相談話に強く抗議し、長崎や在外被爆者も含め、高齢化する全ての被害者を救済するための緊急措置と、恒久的・抜本的な救済制度の確立を強く求めます。

 

1: 1979年に設置された「原爆被爆者対策基本問題懇談会」は80年に答申、その考えは94年成立の原稿被爆者援護法にも引き継がれたが、その議事録が2010年に公開。完全な国家補償を認めず、被害の矮小化への厚労省の誘導の経緯が明らかになった。参考記事:西日本新聞202094日「『受忍論』に怒り 裏切られた期待 原爆を背負って」https://www.nishinippon.co.jp/item/n/634916/ 参照 

 

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