【談話】コロナ特措法「改正」と緊急事態宣言延長にあたって
【談話】コロナ特措法「改正」と緊急事態宣言延長にあたって
2021年2月3日
緑の党グリーンズジャパン共同代表 中山 均
昨日(2月2日)、政府は新型コロナウイルス感染拡大を受けて発出していた緊急事態宣言を10都府県で延長することを決定しました。地域経済への深刻な影響が続くことは必至で、医療・保健体制の確保や支援とともに、事業・雇用や暮らしへの多角的支援、今後も懸念される精神面やDV被害等への適切な対応が引き続き求められます。
延長の決定の前日(2月1日)には、新型感染症対策関連法の「改正」案が、与党と立憲民主党などの賛成多数で衆議院を通過し、本日中にも成立の見込みとされています。この改正案には、当初は入院拒否者や疫学調査拒否者への刑事罰などが盛り込まれていましたが、これを行政罰に修正する自民・立憲両党の合意を経て提案されたものです。修正合意で自民党側が譲歩したのは、多くの法学・医学系団体や市民からの強い批判の声が上げられた成果です。
しかし、行政罰による過料も実質的には罰金刑と大差なく、実効的な補償や感染対策が不十分なままの安易な強制措置は問題の解決につながりません。この間、政府の感染対策は場当たり的で、GO TOキャンペーン等による感染拡大の可能性も指摘される中で、病床が不足し、多くの感染者が自宅待機を余儀なくされる現状への配慮も欠けています。事業者が時短営業を拒んだ場合の過料は引き下げられたものの、補償の額や範囲は不十分かつ曖昧です。保健所が行政罰の調査・通告を担当すれば、感染対策や患者の支援を担当する本来の業務への支障も懸念されます。
日本医学会連合は、罰則などの強制的な手法について (1) 感染症法はハンセン病等の教訓を踏まえて人権の尊重が基本理念 (2) 性感染症対策やAIDSの経験から、強制的手法は公衆衛生上もデメリットが大 (3) 入院拒否の背景には差別など様々な原因があり、それを取り除くことがより重要 (4) 罰則を設けることで、むしろ検査を受けないことを促進するおそれ などの問題を指摘しています(※1)。今回の修正でも、これらの課題は残ります。
新型コロナ感染対策で厳しい私権制限が設けられているヨーロッパ諸国でも、その制限には国会や裁判所によるチェックを経ています。今回の改正案では国会の承認が付帯決議として盛り込まれましたが、これを形骸化させないことが必要です。また、罰則の導入を議論した厚労省の専門部会で多くの批判や慎重論が出されたにもかかわらず、政府が「概ね了承された」と説明したことも、行政の公正性や透明性を踏みにじる重大な問題です。
深刻な感染症拡大に対処するため、事業者や市民の広い協力を求め、一定の規制等が必要になる局面もあるかもしれません(※2)。しかしそれは、まず信頼に耐えうる政治と行政、十分な補償や雇用の保護、有効な感染対策を促す施策の充実が徹底されることが前提条件です。
新型感染症拡大は、社会に内在していた格差や貧困などの歪みを一気に顕在化させました。新興感染症の背景に気候変動や環境破壊、グローバル経済の際限のない拡大があることも明確です。これまでの社会や経済のあり方を続ける限り、新たな感染症拡大と向き合うことは避けられません。そのたびに人権の制限と、それに便乗した憲法改正の企図が繰り返されるかもしれません。私たちは、社会や経済の転換、公正で透明な政治の実現こそ、人類が直面する感染症拡大への重要な対策であることを繰り返し訴えます。
※註
1:「感染症法等の改正に関する緊急声明(2021年1⽉14⽇)」⼀般社団法⼈⽇本医学会連合 http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20210119.pdf
2:例えば食品衛生法では食品を取り扱う事業者が食中毒防止のための「HACCP(ハサップ)の考え方を取り入れた衛生管理」が義務化されている一方、現在は導入違反への罰則はない(ただし都道府県条例で罰則を加える場合もある)。
PDFファイルは⇒https://greens.gr.jp/uploads/2021/02/danwa_20210203.pdf