【声明】旧優生保護法下で行われた不妊手術の損害賠償請求裁判- 違憲判断を避け…

 

【声明】 旧優生保護法下で行われた不妊手術の損害賠償請求裁判-

違憲判断を避け、訴えを退けた東京地裁判決を批判します

 

2020年7月10日
緑の党グリーンズジャパン運営委員会

 

  さる6月30日、旧優生保護法に基づき不妊手術を受けさせられた東京の男性が国に賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は、損害賠償請求権が存在したことは認めつつも、手術や同法の改正時から20年以上経過していることを「除斥期間が経過している」として、訴えを退けました。
  しかし、加害者が被害者の損害賠償請求権の行使を困難にし続けた場合においては、時効や除斥期間の適用を排除した判例もあります。加害者である国は、旧法改正後、強制手術被害者に対する十分な説明や周知、補償や謝罪と救済を怠ってきました。この男性も、2018年1月に宮城県の女性が仙台地裁に提訴したことを報道で知り、この時初めて、自身の手術が旧法の制度に基づくものだったと認識したものです。したがって、除斥期間を機械的に適用するべきではありません。国は、この問題の本質を踏まえ、除斥期間の適用ではなく、すべての被害者を救済する立法措置を執るべきだったのです(※1)。裁判所が、このような国の立法不作為を違法・違憲ではなかったとし、被害救済から背を向けてしまったことは、厳しい非難に値します。
  特に、今回の東京地裁判決は、同じ理由で請求を棄却したとはいえ旧優生保護法が違憲であると明言した昨年の仙台地裁判決と比べても、同法自体の違憲性に触れなかった後退したものです。国会の立法不作為について免責した点とあわせて、社会的少数者を救済すべき司法の責任から目を背けたものと言わざるをえません。

  2018年2月の論説(※2)で指摘した通り、1948年に制定された優生保護法は、単に戦前の国民優生法の思想を受け継いだだけでなく、戦後日本社会の経済成長と社会保障制度の整備に向かう中で、障害を持つ人々への福祉コストを下げ、人口増加を抑制するための社会的装置として機能しました。これに基づく「優生手術」は、戦前の「国民優生法」では対象とならなかった遺伝性のない心身疾患や障害を持つ人、さらには疾患も障害もあるとは言えない人にまで対象が広げられました。本人に同意を強いた事実上の「強制」手術まで含めると被害者は統計よりもはるかに多いと考えられます。そしてこれらを医学界・司法・自治体が後押ししたという事実は、この問題の責任が社会全体にあることを示しています。

  私たち緑の党は、基本政策において「性と生殖に関する健康・権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」を謳っています。そして、あらゆる差別撤廃を求めて包括的な「差別禁止法」の制定も提言しています。私たちは、この問題に責任を持つ市民社会の構成員としての自覚も持ちつつ、これからも被害の救済を求め、「優生」という概念が持つ不寛容とナショナリズムを根絶し、その背景にある「国や経済の発展」の価値観を問い直し、多様性と人権を尊重する国際社会と市民とつながり、ともに歩みます。

 

※註 

  1.  なお、昨年4月、強制手術被害者の救済法が成立したものの、被害者への一律一時金の額320万円は被害回復に不十分。約2万5000人とされる不妊手術の被害者のうち、本年4月時点で一時金の支給申請件数は900件に満たず、そのうち認定されたのも500件あまりとされる。プライバシーに配慮した補償の個別通知や、旧法の違憲性を前提としていない救済法の見直しが求められる。
  2. 2018年2月27日論説「旧優生保護法下で行われた不妊手術の違憲性を問う提訴-差別と偏見を正当化する優生思想の根絶の必要性を市民社会も重く受け止めるべき」(星川まり・中山均) https://greens.gr.jp/seimei/21950/

 

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