【世界のみどり】気候危機が選挙の争点にならない日本を 世界は不思議と見ている
気候危機が選挙の争点にならない日本を
世界は不思議と見ている
――独仏メディアが漢人あきこを取材
衆院選投票日はCOP26が始まる日でした。気候問題が日本の国政選挙でどれくらい重視されているか、ドイツとフランスの独立・中立メディアが、選挙応援に励む東京都議の漢人あきこ(緑の党副運営委員長)を取材しました。
○南ドイツ新聞
https://www.sueddeutsche.de/politik/japan-gruene-wahl-1.5450258
PDF:https://greens.gr.jp/uploads/2021/11/japan-gr_ne.pdf
○独仏TVアルテ
https://www.arte.tv/fr/videos/106441-000-A/japon-le-climat-absent-des-legislatives/
以下に各訳文
<記事 独立・中立メディアの南ドイツ新聞>
(意訳翻訳 文責:尾形慶子)
気候危機はおかまいなし (2021.10.27)
環境問題は、日本ではほとんど重視されない。日本の緑の党は10月31日投票の衆院選に間接的にしか関わることができない。日本政府の新しいエネルギー戦略も、説得力があるとはとても言えないと専門家は見ている。
トーマス・ハーン(東京)
日本で長く政権を握っている自由民主党も、今のように深刻な環境問題に目を向けるくらいはするだろうと期待することは間違いだ。来たる日曜の衆院選の選挙戦最中に、気候変動に関してひんしゅくをかった麻生太郎の例がある。81歳、かつての総理大臣で、国会解散前まで財務大臣を務め、党副総裁としてなお影響力を持っている麻生太郎がある。
彼は自分の基本姿勢が極右であることをときおり喋らずにはおれない人だが、それが彼の信望を傷つけることはない。先の日曜日、北海道小樽市での演説で、人間によって作り出された地球温暖化を彼流に解釈して見せたのだ。つまり、地球温暖化にも「いいところ」はあると彼は言ったのだ。北海道産のコメは「地球温暖化のおかげで今ではおいしくなった。以前は売れなかったのに今では輸出さえしている」と。
選挙で選ばれた多数の議員を擁する政党が、気候危機に関してこのような呑気な物言いができるということは、世界第3位の経済大国における環境意識がどれほどかがわかる。こんな日本でも2050年までに炭素排出量ゼロにすることを義務付けられているのだ。昨年になって当時の総理大臣・菅義偉が目標を定めた。ようやく先週になって内閣は新エネルギー戦略を決定した。10月初めに内閣を引き継いだ新総理・岸田文雄の最初の外遊先は、日曜日からグラスゴーで始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)である。
与党自民党にとって、原子力は欠かすことができない。
しかし専門家たちは、新エネルギ―戦略が説得力あるとは見ていない。気候変動シンクタンクE3G(環境問題解決のためG7全体に途上国援助をさせようとしている組織)のハンナ・ハッコ氏は次のように述べている。「日本が依然として石炭に大きく依存した計画を持ってCOP26に臨むのは残念なことだ。対照的に他の経済大国は、石炭を過去のものにしようと強制力ある処置を議論しているというのに」。
数日前に英国BBCは、化石エネルギーを削減しようとする世界の潮流を弱めようとしている国の一つが日本だと報道した。この見方は、国連が取るべき最善の気候対策・エネルギー戦略を探求している科学者チームに届いた、およそ32000の提案に由来している。
日本では環境問題は、選挙戦において争点として比較的小さい。野党共闘する中道左派政党は原発のない再生可能エネルギー利用を訴えてはいるが、それは必ずしも無条件で得票に結びつかない。いやその逆である。朝日新聞によれば、電気労連は今回の選挙で野党を支持していない。なぜなら自民党の言うように、原発は炭酸ガス排出量ゼロのエネルギー源であり、将来のエネルギーミックスにとって欠かすことのできないからだ。
「環境問題がメディアの扱いが少なすぎると言われるが、まったく正しい」と漢人あきこは言う。彼女はいわば環境問題を象徴する人物である。なぜなら政治家・漢人あきこ(61歳)は日本の緑の党を牽引する一人であるからだ。彼女はドイツに関心を寄せている。ドイツの緑の党が未来に向けて問題に取り組み、今、新たな政権に参加しようとしているからだ。
日本の緑の党は福島の原発事故の後、ようやく創設された。
日本ではドイツと違い、緑の党はまだひどく小さく、ほとんど目に入らない存在である。350人の党員、国会に議席を持たない。2011年の福島原発事故後、つまり9年前にようやく創設されたのである。今回の選挙に緑の党は、共闘する52名の中道左派の候補者を応援するという、本当に間接的な形でしか姿を現さない。しかも漢人明子は、なるほど都議会議員ではあるが、公式には緑の党としてではなく無所属としての都議会議員なのである。
立候補に必要な供託金が日本は「世界一高い」、それが緑の党が極小政党であることの一つの大きな理由であると漢人は考えている。緑の党はこの供託金を憲法違反とみなしており、現在なお係争中の供託金違憲訴訟を支持している。漢人あきこは「今の制度では、新しい政党が世に出るのは難しい」と主張する。しかし緑の党にとって困難なのは、日本で環境問題が伝統的に二の次の問題であることに関係すると思われる。自民党は何より経済問題に関心を払う。内閣において環境問題を所轄する環境省はあまり影響力がない。新たに環境省を率いる大臣の山口壮(67歳)は、環境問題にとりわけ強い人物ではない。
この国の人々は気候変動のことを気にしているとは言い難い。日本では「Fridays For Future(未来のための金曜日運動)」の存在をほとんど感じることができない。共同通信が選挙のために行った世論調査の中で最重要政策についての質問に、36.7%の人たちは経済政策と答え、16.1%がコロナ対策と答えた。
「状況は簡単ではない」と漢人あきこは言う。彼女は言うように簡単ではないが、彼女が応援する人たちが選挙でいい結果を出すことを願っている。彼女の目的は明白である。「私たち緑の党は、とにかくまず国民の気候変動問題に対する意識を高めたいのです」。いつになるかわからないが、その時には麻生太郎でさえも、地球温暖化の問題が何かを理解するかもしれない。
(原文)Sorglos in die Klimakrise
https://www.sueddeutsche.de/politik/japan-gruene-wahl-1.5450258
<動画 独仏TVアルテ>
日本:気候危機のない国政選挙 (2021.10.30)
動画リンク↓
https://www.arte.tv/fr/videos/106441-000-A/japon-le-climat-absent-des-legislatives/
(意訳翻訳 文責:尾形慶子)
「みなさん、お越しいただきありがとうございます!」
選挙戦最終日、2011年の東日本大震災の際に首相を務めていた菅直人は、立憲民主党の候補者として、ギリギリのところにあった。彼は環境問題について語る数少ない候補者の一人だ。
「太陽、風力などの自然エネルギーには大変な潜在力があります。」(と菅は演説する。)
「環境問題は、私の政策の中心にあります。一刻も早く、原子力発電はやめなければなりません。そして再生可能エネルギーを発展させなければなりません。」
緑の党の都議・漢人あきこは、この日、菅の応援に駆けつけていた。彼女は、菅が環境問題、気候変動をあらためて政策論争の焦点にしてくれると期待したのだ。
「私はとても憤りを感じています。与党は自分たちの保身のため、環境問題について語ろうとしません。それどころかそれに反対しています。この問題では選挙は勝てないと考えているからです。」
環境問題を扱う党やその選出議員は日本では特殊だ、と彼女は言う。日本のエネルギーの4分の1は石炭由来であり、日本は世界で5番目のCO2排出大国だ。そして状況はそこから発展する兆しを見せない。
「最近では、元首相の麻生氏が、北海道のコメが美味しくなったのは、温暖化で気温が上がったからだと言いました。日本では、壊滅的な被害をもたらす自然災害が増えていることと政治とは関係もない、という具合なのです。彼らは『すべてはうまくいく』と思っているようなのですが、私はこの楽観主義は恐ろしいです。」
懸念されるのは、今回の候補者の多くが環境問題、気候変動を政策の論点にしなかったことだ。彼らが論じたのは、むしろコロナウィルスとその経済への影響だった。
この経営者は、パンデミックの影響により、経営する2つの店舗のうち1つを閉店に追い込まれた。
「ここはお客さんの半分が来なくなりました。経済的な支援があった間はなんとか切り抜いてこられましたが、それも今はなくなりました。これは危機です。もしかしたらもう1店舗も閉めなければならなくなるかもしれません。」
にもかかわらずこの経営者は、1950年代半ば以降日本の政界を支配してきた自民党に投票した。世論調査によれば、日本ではずっと自民党びいきが存在しているからだ。したがって、日本で政治的変化が起きる可能性は少ない。それが起きて初めて、気候変動問題に直面することができるのだが。