【世界のみどり】福島原発事故から5年、ドイツ3州の選挙結果が意味するもの
福島原発事故から5年、ドイツ3州の選挙結果が意味するもの
共同代表・国際部 長谷川平和
5年前、ドイツが決断した脱原発はバーデン・ヴュルテンベルク州とラインランド・プファルツ州の選挙結果がすべてでした。福島第一原子力発電所の事故があった後、特に自動車や機械産業がひしめく保守王国でおきた緑の党の大躍進は政治的大激震ともいわれました。この緑の党の大躍進は、ドイツにおいて原発を推進することは、政治家としてもはや生き残れないとされ、2000年に決定した脱原発路線を覆したメルケル政権は、もう一度脱原発に舵を切らざるを得ませんでした。
しかしながら、最近のギリシャ財政問題や難民問題、そしてテロ事件などを背景にヨーロッパ各地で右翼系の政党が台頭する中で、ドイツでも2013年に設立されユーロ圏離脱を掲げるAfD(ドイツのための選択肢)が勢力を拡大してきました。
そして、福島の原発事故から5年が経過した3月13日、ドイツの3つの州(バーデン・ヴュルテンベルク州、ラインランド・プファルツ州、ザクセン・アンハルト州)で州選挙がありました。
【ラインランド・プファルツ州】 投票率70.4%(前回61.8%、前々回58.2%)
日本にも来日したことのあるシュテフィー・レムケさん率いるラインランド・プファルツ州において、緑の党は残念ながら5.3%(前回15.4%)しか獲得できませんでした。AfDが12.6%の票を獲得する中で、緑の党は他の政党と比べても大きく負け越しました。この選挙結果だけをみると、緑の党の減少分はAfDにすべて奪われてしまったようにも見えます。
【ザクセン・アンハルト州】 投票率61.1%(前回51.2%、前々回44.4%)
緑の党がそれほど勢力をもっていない旧東ドイツ地域のザクセン・アンハルト州では、緑の党は前回から1.9%ポイント減らし、5.2%の得票率となりました。また、左翼党が7.4%ポイント、社民党が10.9%ポイント、保守のCDU(ドイツキリスト教民主同盟)でさえも2.7%ポイントの得票率を減らす中で、AfDは24.2%の得票率で大躍進を遂げています。この州では極右政党であるNPD(ドイツ国家民主党)も得票率が2.7%ポイント減少していて、ギリシャ問題や難民問題に対する市民の不満などはすべてAfDが吸収しているかたちになっています。
【バーデン・ヴュルテンベルク州】 投票率70.4%(前回66.3%、前々回53.4%)
右傾化する欧州と、各州で苦戦を強いられているドイツ緑の党ですが、クレッチュマンさん率いるバーデン・ヴュルテンベルク州では、緑の党は得票数を原発事故直後よりもさらに6.1%ポイント伸ばし、30.3%となりました。これは同州における緑の党が、補助的な連立パートナーとしではなく、主導的な役割を担うという新たなフェーズに入ったことを意味しています。その一方で、CDUとSPDが10%ポイント以上得票率を減らし、AfDはさらに多くの15.1%の票を得ました。
バーデン・ヴュルテンベルク州における緑の党躍進の立役者であるクレッチュマンさんは、来日したことがあり、日本の緑の党のメンバーとも交流がありました。ドイツでナンバー4にあたる連邦参議院で議長も務めた彼は、選挙期間中、批判を受けているメルケル政権の難民政策に対してCDUが距離を置こうとする一方で、メルケルの難民政策を一貫して擁護しました。クレッチュマンさんは、「信頼できる政治家」として党を超えて保守層にも支持されています。ドイツの核燃料の最終処分場問題においても、彼がこれまで最終処分場の候補地がなかった同州でも処分地を検討する用意があると発言をしたことで連邦各州が大きく動き出し、最終処分場委員会なども議会で立ち上がりました。
今回ドイツで行われた3つの州選挙では、伝統的な政党が大きく後退し、政治が新しい時代に入ったことを印象づけています。特にバーデン・ヴュルテンベルク州では(ザクセン・アンハルト州も)、これまでドイツの民主主義を牽引してきた2大政党CDUとSPDが、両党の票を合わせても過半数を得ることができない状況に陥りました。既存の政党では、社会の不満や要求に十分に応えられていないという状況をあらわしています。
また、ザクセン・アンハルト州とラインランド・プファルツ州において緑の党は負けましたが、今後も引き続き政権に残る可能性も残っています。社会が右傾化していく流れを止めるには、緑の党の力が何としても必要だからです。市民の不安や怒りを代弁する政党は時には必要なのかもしれませんが、それ以上に必要なのは、市民に新しい希望と勇気をもたせ、市民とともに未来を創造していくことのできる政党です。ドイツや欧州の政治状況についても、引き続き注目していきたいと思います。