【インタビュー】鳥井一平さんに聞く「多文化共生社会の実現に向けて、100回にヘイトには101回のファクトで対抗」

多文化共生社会の実現に向けて、100回にヘイトには101回のファクトで対抗

在留外国人が370万人を超えた中で、参議院議員選挙では「日本人ファースト」を掲げた党が議席を伸ばし、自民党の総裁選でも「外国人問題」が争点になりました。埼玉県の川口市議会では収容所の新設を含めた外国人の取り締まり強化を求める国への意見書が可決され、地域に暮らすクルド人たちへのヘイトが深刻化しています。日本が排他主義に向かう構造とは? 多文化共生社会を実現する鍵を、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)共同代表理事の鳥井一平さんに聞きました。

鳥井 一平さん
移住連 共同代表理事

1953年大阪府生まれ。全統一労働組合外国人労働者分会の結成を経て、93年の外国人春闘を組織するなど、外国人労働者を長年に亘ってサポート。2013年に日本人としてアメリカ国務省の「人身売買と闘うヒーロー」に初選出。2015年6月に設立した特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)などの活動は、NHK「プロフェッショナル」仕事の流儀(2019年9月放送)でも特集された。近著に「国家と移民 外国人労働者と日本の未来」(集英社新書 2020年刊)。

(インタビューアー)

ブランシャー 明日香
杉並区議会議員

長崎県生まれ。カナダ・ヨーク大学社会人類学部卒業し、多文化都市トロントで生活した後帰国。3.11に際しては震災復興支援のため、石巻や福島でポランティア活動。2019年からは西荻窪善福寺にエコロジーカフェ・カワセミピプレットを開店し、ヴィーガンランチなどを提供するとともに、カフェを軸に環境キャンペーン「西荻大作戦」スタート(2025年3月末閉店)。2022年より緑の党グリー ンズジャパンに参加し、2023年の杉並区議会議員選挙で「ゼロカーボンをまちづくりのど真ん中に」を掲げて初当選。

何故、日本人ファースト?!
知られていない「在留資格」の構造 

―― 「日本人ファースト」をはじめとする過度なナショナリズムが横行する状況に危機感を抱いていますが、その背景とは一体何なのでしょうか?

鳥井 排外主義が横行することに対して危機感を抱いている人たちは大勢いて、参議院議員選挙以降、私への講演依頼も後を絶ちません。そこで目の当たりにするのは、問題意識を持っている方々であっても、驚くほどに在留外国人のことを知らないということ。我々の発信力不足もあるのでしょうが、同時に出入国在留管理庁(以下:入管)が外国人を受け入れる仕組みを非常に煩雑というか、敢えて分かりづらくしているからです。在留外国人は、戦前から日本に在留している旧植民地出身者とその子孫はオールドカマー、1980年代のバブル経済期以降に労働力として在留しているニューカマーに大別されますが、特にニューカマーに関する政府の政策は極めて作為的なので、そのことが彼らへの理解を難しくしているのだと考えています。

―― 政府や入管の意図とは、どのようなことですか?

鳥井 「在留資格」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。これは外国人が合法的に滞在し、生活・活動するための法的な資格ですが、実際には就労を伴うものから就労できないものまでを含めて全部で29種類あります。にもかかわらず、「外国人問題」と一緒くたにしてしまっているので、日本人と外国人という分類でしかイメージできなくなってしまっていて、ヘイトにつながってしまっているのが現状です。

時系列的にいうと、1980年代には「オーバーステイ容認政策」としかいうしか説明がつかない政策が展開されていました。バブル経済期の労働力不足を補うために受け入れてきたニューカマーに対して、オーバーステイを容認していたのです。外国人労働者が増加の一途をたどりました。

入管は、「このままではマズイ」と思ったのでしょう。次に移民した日本人たちに帰ってきてもらおう」という政策に舵を切りました。それが1989年の入管法改定に伴う、「日系ビザ」の発行です。日系2世・3世は定住者としての「在留資格」を取得でき、就労制限がないのが特徴です。ところが稚拙な政策であったため、入管の思惑とは異なり、ブラジルやペルーなどから日系以外の人たちも家族を連れて働きに来るようになりました。入管としては不本意であることから、次の対策を考えました。研修生・技能実習生への置き換えです。

―― 技能実習生という名目で、人手不足を補おうとしたわけですか?

鳥井 その通りです。実際には技能実習という名目の制度は1993年から存在していましたが、在留資格は付与されていませんでした。そこで2009年に再び入管法を改訂し、2010年から「技能実習」という在留資格を創設し、限られた業種で報酬を伴う活動を認めたのです。そもそもこの制度は「日本の技術を母国に持ち帰ってもらう国際貢献」を掲げてスタートしたわけですが、目的と実態は著しく乖離していました。そこで、私たちは奴隷労働の実態を、国内外に訴えて続けてきたわけです。

また、この制度は新たな歪も生み出しました。技能実習の対象となる業種・職種が限られていたので、人手不足が続いていたそれ以外の業種が、原則就労を伴わない在留資格の人たちに依存し始めたのです。学業を目的とするはずの「留学」、扶養を受けて滞在する「家族滞在」といった人たちが、その隙間を補いました。

このような状況はしばらく続きましたが、意外なところからこの制度を問題視する声が発せられました。それは、経済界に他なりません。要は少子高齢化が進む中で「現場で技能実習生を「教える」立場の人=担い手がいなくなってきた。このままでは日本の産業が壊れてしまう」ということで、「労働者」として受け入れる在留資格を求めたのです。当時の安倍政権も抵抗できず、2019年4月に「特定技能制度」が創設され、労働者としての外国人の受け入れが拡大されました。

なお、技能実習制度については2017年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が施行されたものの、結果的には劣悪な労働環境、人権侵害などの状況は変わらず、国際的な批判の高まりもあって2024年6月に廃止が決定されました。2027年から新たな「育成支援制度」にシフトするそうですが、現在の政治情勢を鑑みると決して楽観できません。

外国人労働者数は常に最大を更新
国籍も多様化の一途をたどっている 

―― 先程、オールドカマーとニューカマーのお話がありましたが、現状のナショナリズムには歴史観すらないように思えます。

鳥井 良いご指摘です。日本では「外国人」という言葉に収斂されてしまっていますが、国際会議などでは、「Migrants(移民)」という言葉が使われています。決して「Foreigner(外国人)」ではないわけです。ところが日本政府は「移民政策はとらない」という立場から、一貫として「移民」という言葉を使っていません。「外国人労働者」とすら言わずに、安倍政権以降は「外国人材」という言葉ですり替えています。私はここに大きな問題点が隠されているように思います。「外国人」という言葉自体に、実は排外的・差別的な意味合いが内包されているからです。

アガサ・クリスティの小説を原作に映像化された「名探偵ポアロ」はご存知ですよね。その中でポワロが犯人を特定して捕まえた際に、犯人が彼を指して「Foreigner(外国人め)!!」と叫ぶシーンがあります。ポアロの人物設定は、ナチスの迫害から逃れてベルギーからイギリスに亡命した元警察官。いくら名探偵であっても、差別対象に他ならないということです。「日本人」が「移民」といわずに、「外国人」という構図にも、同様に根本的な隔たりがあると感じています。

―― 在留外国人数がクローズアップされていますが、そこから何を読み解け場良いですか?

鳥井 3,956,619人(2025年6月)という最新データが発表され、法務大臣が会見で「過去最高を更新」と危機感を煽りましたが、これは戯言です。コロナ禍で1度だけ減少したものの、基本的には1980年以降、調査結果の度に過去最高を更新しています。また、日本の総人口に占める割合が「3.21%」になったと強調しますが、すでに昨年の12月で「3.05%」に達しているのです。

ここで気を付けなければならないのが、データで示されているのは「外国籍者」であるということ。つまり、帰化した人たち、あるいは家族の中に外国籍の方がいるケースを含めると、実際にはもっと多いということです。統計は把握し切れていないのです。

【日本の外国人登録者数・在留外国人】

出典:法務省出入国管理庁(2009年7月~2024年6月)・総務省統計局

―― 日本に暮らす移民の方々の国籍はどのような構成になっているのでしょうか?

鳥井 日本全体では中国、ベトナム、韓国・朝鮮、フィリピン、ブラジル……という順番です。これまで速報では上位10ヵ国が示されていましたが、最近では上位20ヵ国を発表しるようになりました。より多くの国から来るようになったからです。しかし、その割合は地域によって異なります。東京都の場合は中国と韓国・朝鮮が圧倒的な割合を占めていて、ベトナムはそれほど多くありません。これが群馬県になるとベトナムに次いでブラジルが多く、大阪府では韓国・朝鮮がトップで次いで中国、ベトナムという順、愛知県ではベトナムの次がブラジルとなっています。このことが何を示しているかというと、都道府県の地場産業、つまりどのような仕事があるかということに関係しているということです。市町村によっても違いがあります。また、大手企業ではブラジルの人が多く、第1次産業が盛んな北海道や九州などでは多くの技能実習生を受け入れてきたことから、ベトナムが圧倒的です。

【在留外国人数国籍別】

総数:3,768,977人(入管庁:2024年12月)

―― 人口比率も、地域によって違うのでしょうか?

鳥井 外国人住民数の割合は、東京都が5.21%と高く、首都圏の神奈川県は3.17%。愛知県が4.45%、大阪府が3.80%、群馬県で4.42%となっています。ただし、東京都でもばらつきがあって、私が住んでいる小松川平井地区は10%に達しているといわれています。中国の方が多いですが、IT関連の仕事に就いているインドの方が多いのも特徴的です。バングラディッシュ、パキスタン、インドネシア、ネパールなど、南アジアの人たちも増えています。

【在留外国人数国籍別】

―― 在留資格の区分が多様で分かりづらいということですが、どのようなものがあって、その割合はどうなっているのでしょうか?

鳥井 就労可能な在留資格は、「身分に基づく在留資格(身分系)」と「特定の専門的な活動に基づく在留資格(就労系)」に大別できますが、これが非常に分かりづらい。身分系は永住者・定住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等の4種類で、就労に制限はありません。一方、就労系は技術・人文知識・国際業務などといった特定の職務に限定され、定められた範囲内での就労のみ可能となっています。2年ぐらい前までは、身分系の方の割合が伝統的に多かったんです。ところが現状では過半数を割っています。

これが何を意味するかというと、労働者が増えたということに他なりません。さらに問題なのは、就労系の人たちの身分が非常に脆弱であるということです。「専門的な活動に基づく」といっても実際には幅が広く、1年もしくは3年単位での在留更新が必要です。しかも、その手続きは煩雑で、かつ受け入れ・定着も企業側に依存しているため、業務範囲を超えた就労には不法就労リスクもあり、更新されなかった場合は在留資格を失ってしまうのです。さらに身分系の人たちは日本人に準じて生活保護などを受けることが可能ですが、就労系はその条件すらなく、セーフティーネットに引っ掛かりません。加えて金融に対するアクセスも、在留期間の長さや金融機関ごとの審査基準によって高いハードルが設けられています。

【在留外国人数在留資格別】

総数:3,768,977人(入管庁2024年12月31日)

―― 海外では「就労ビザ」といわれるものがありますが、日本の場合はどうなっているのでしょうか?

鳥井 日本には就労ビザはありません。「就労できるビザ」になります。また、日本企業の多くが求める「単純労働」に対するビザはありません。日本の就労系在留資格は職種ごとに細かく分類されていて煩雑で、雇用する側も理解していません。その結果として、就労系の人たちの「不法就労」リスクが高まっているのです。

例えば、技能が認められて就労系のコックさんとして働いていたとします。ところが、店が暇だからという理由で工場や農家で働くと、その瞬間に資格外就労ということで、「不法就労」になってしまいます。

一方、身分系の人たちは、その限りではありません。さまざまな職種に就くことができます。ただし、実際には派遣会社の管理下にあることが多く、ほとんどが有期雇用となっています。

―― 在留外国人の方々はどのような課題に直面しているのでしょうか?

鳥井 最も矛盾が集約されているのが、現在も在留資格別で12.1%を占めている技能実習です。実習実施者との間に雇用契約を結びます。また、労働基準法が適応されない、労働者ではない労働者として働いている人たちも少なくありません。法律の改訂により少なくはなりましたが、その代表格が研修生であったことは言うまでもありません。また、家事労働者も、これに該当します。日本が先進国の中で唯一、ILO(International Labour Organization:国際労働機関)が採択した「家事労働者の適切な仕事に関する条約(第189号条約)」に批准していないことが理由です。

そして、悪名高い興行……。ここでは1980年代のニューカマー以前の1970年代から、さまざまな問題が顕在化しています。最近では、名前にカタカナが含まれたスポーツ選手が日本代表で活躍していますが、彼らの母親の中にはフィリピンなどからシンガーやダンサーととして日本に訪れた人たちが少なくありません。エンターティナーとして訪日したわけですが、実際には繁華街でホステスを兼務していました。暴力が頻発し、殺人事件までが起きて国際社会から大きな非難を浴びたのでいまは激減しているものの、極めて劣悪な環境だったことは間違いありません。例えば、彼女たちは給料をもらえないということで労働基準監督署のドアを叩くわけですが、ビザを確認してもエンターティナーの場合は労基法の適用外です。しかし実態としてホステスとして働いていたので労基法が適用されます。しかし、労基法が適用された瞬間に彼女たちは資格外就労ということで入管法違反になってしまうのです。

この他、日本は難民をほとんど受け入れていませんが、「難民」以外に「難民申請中」というカテゴリーの人たちがいます。難民申請中というのは、国際社会から難民を受け入れない日本に対する批判が強まる中で、批判をかわすために考えたカテゴリーです。申請から6ヶ月経過後に「特定活動」という在留資格が付与され、限られた条件で6カ月間の就労が可能です。

また、厚生労働省は「留学」も労働者のカテゴリーとして位置付けています。このこと自体がおかしい話で、先進国どころか地球上のどこを探しても「留学」を労働者として分類している国は日本だけでしょう。ここに偽装・欺瞞が象徴的に表れています。

そして前述した特定技能1号・2号「相当程度の知識・経験」が必要とされる1号には通算5年の在留期間制限と家族帯同不可という条件があり、「熟練した技能」を要する2号は在留期間更新に制限がなく、家族帯同でより長期的な滞在が可能となっています。また、「家事支援人材」には労働法が適用されます。基本的には人材派遣会社を介して雇用される仕組みとなっていて、この他、高齢化社会ということで「介護」も在留資格に加えられました。介護福祉士の資格試験に合格していることを条件に最長5年の在留期間が与えられますが、その後は更新が必要です。

これらをすべてトータルすると、日本の労働者人口に占める外国人労働者の数は、公的な最新データの2024年10月時点で約230万人。全体の3.74%です。先程、コロナ禍にあって在留外国人数が一時的に減少したといいましたが、こと労働者人口に関しては、コロナに関係なく、ずっと増え続けていて、常に過去最大を更新しています。

―― 技能実習の矛盾について、もう少し詳しく教えてください。

鳥井 技能実習生としては、過去中国が大きな比率を占めていましたが、現在はかなり少なくなっていて、ベトナムが46.5%と圧倒的で、インドネシアの22.1%、フィリピンの8.9%が続きます。ベトナムが過半数を超えそうな時期がありましたが、ピークは過ぎたようです。より多くの国から来るようになったこともありますが、実はベトナム自体も人口減少社会に入っているといわれています。

業種別での認定件数は建設が23.6%と最も多く、次いで食料品製造(19.6%)、機械・金属(13.1%)となっています。実は当初、建設業は敬遠されていて、繊維・衣服(5.8%:現在4位)がトップでしたが、構造が変わっています。また、溶接(5.0%)・プラスチック成型(4.3%)・介護(4.0%)・工業包装(3.5%)といった職種もいろんな業種にまたがって一定の比率を占めています。

一方、約230万人を対象とした厚生労働省の「外国人労働者雇用状況(2024年10月)」では、特定技能といわれる専門的・技術的分野(31.2%)、身分に基づく在留資格(27.3%)、技能実習(20.4%)、特定活動(3.7%)、資格外活動(17.3%)といった分類でその割合を示しています。しかし、技能実習や留学、家族や配偶者として来ている人たちは本来、労働目的ではないはずです。つまり、実際に「労働者」として入国しているのは、専門的・技術的分野の718,812名に過ぎません。しかも、専門的・技術的分野の内28.8%を占めている特定技能にしても、その7割が技能実習からの移行です。また、留学生の就業先としては卸売業・小売業や飲食業・サービス業などがあげられます。それは、これらの業種が技能実習として認められていないからです。世の中では外国人が偽装して働いているようなイメージを持つ人たちが少なくありませんが、実際には技能実習生や留学生という名目で入国させておきながら労働力にしているのは、むしろ日本側なのです。ここに「外国人労働者」における日本の欺瞞が集約されているといっても過言ではありません。

【技能実習生国籍別在留数】

総数:456,595人(法務省 2024年12月)

【技能実習生の業種別(認定件数)2024年3月】

総数:350,026人(技能実習機構業務統計2023年度)

在留外国人への誤解に立脚した
「ゼロプラン」の矛盾と問題点

―― 最近、仮放免という人たちの子どもたちが、日本で生まれ育っていながらも親と一緒に強制送還されていることが問題となっています。これもやはり、制度上の問題なのでしょうか?

鳥井 仮放免というのは、収容されている外国人が、健康上の理由などにより一時的に収容を解かれる制度です。在留許可ではなく、強制退去手続きが継続される仮放免は、就労は認められず、社会保障もありません。申請には保証金が必要で、住居・行動範囲の制限などの条件も付けられます。2025年5月に法務省が非正規滞在者の強制送還を強化する「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン(ゼロプラン)」を発表。以来、入管も躍起になって退去強制手続きの迅速化や送還の強化などを進めており、仮放免の人たちの現状はさらに厳しさを増しています。

―― 2005年から日本で暮らしているマリベス・ドミンゴさんという方が収容を経て強制送還の危機にさらされ、日本国籍を持っている自分の娘と離れ離れになってしまう状況にあるという話も聞きました。

鳥井 多分、父親が娘を認知した後に離婚に至ったケースではないかと思います。このケースを含めて、日本で生まれ育った子どもたちと、長年に亘って日本で生活基盤を築いてきた親を引き裂くというのは人道的にあってはならないことです。国際的にも日本の評価を下げることに繋がるので、普通に考えれば、在留資格を与えればいいだけのことだと思います。それは決して不可能ではありません。在留資格というのは極めて裁量的であるからです。例えばコロナ禍にあっては、人道的な配慮ということで帰国困難者に対して「特定活動」の在留資格を与えています。要はこのケースも、国際規範や人道的見地に立って裁量すれば、引き裂かずに済むわけです。ところがそれができない、しづらい風潮が、日本社会において蔓延しつつあることに危機感を抱いています。

―― 「日本人ファースト」に象徴される過度な排外主義は、どのような状況を招いているのでしょうか? 

鳥井 キューポラの街としても知られる埼玉県川口市は外国人が多く集まる街で、仮放免のクルド人も多く住んでいます。その中で今年の9月、川口市議会で自民党が外国人に対する取り締まり強化などを求める意見書を提案しました。意見書の趣旨は、「仮放免の外国人は住民基本台帳に登録されず実態が把握できない。こうした人らが増加したことで市民生活への不安が増している」というもの。この極めて漠然とした趣旨を根拠に、ゼロプランの着実な実行、新たな収容所の建設、仮放免者が多い地方公共団体への入管庁機関の設置などを要求し、賛成多数で可決されたのです。

私は、入管の実情をまったく知らない人たちが意見書を作成し、それを議会が鵜呑みにして可決されたことに驚きました。収容所の建設は、仮放免制度を形骸化させることが目的のようですが、実際には入管の収容施設は閉鎖が始まっていてガラガラだからです。2024年6月10日に施行された入管法では全件収容主義の原則を改めているからです。それに代わって、被収容者が逃亡等を防止しつつ社会の中で生活しながら退去強制手続きを進めることを可能にする「監理措置制度」を設けました。「監理人」によって外国人の生活状況を把握・監督する制度で、国としては収容しないというスタンスが明確になっているのです。川口市議会の意見書は、この流れにまったく逆行しています。事実を捻じ曲げる以前の問題で、事実をまったく知らないということを露呈しているとしか思えません。

一方で、この「監理措置制度」自体もまた、大きな矛盾をはらんでいます。収容所内で外国人が健康を損ねた際には、これまで治療が施されていました。ところが、民間に丸投げのこの制度では、健康保険を持っていないオーバーステイや仮放免の人たちの治療を、民間で支援しなければなりません。このような問題が、各方面から指摘されています。

―― 「ゼロプラン」のような強硬手段は、これまでもあったのでしょうか? 

鳥井 日本における非正規(不法)滞在者数のピークは1993年で、約30万人(298,646人)いたといわれています。街を歩けばニューカマーの非正規滞在者にぶつかるくらいの人数です。ところが、入管は彼ら彼女らを捕まえるということをしませんでした。何故かというと、日本の産業が止まり、経済が停滞してしまうからです。ところが、バブル経済がはじけた途端に動き出します。刈り込みといわれるもので、一斉に職務質問をやってバスで大量に護送して強制送還させるわけです。政府は「不法滞在者半減化政策」と言っていましたが、まさにご都合主義。日本のために散々世話になった人たちに対する手のひら返しに他ならないので、私は「恩知らず政策」と揶揄していました。

その結果、確かに非正規滞在をしている人たちは減りました。実際に法務省は、日本での非正規滞在者数は2025年1月時点で約74,000人(74,863人)とするデータを発表しています。ピークといわれた頃に比べると相当数減っていますが、この統計はミスリードです。というのも、「減った」わけではなく、まったく違う人たちをカウントしているからです。

政府が発表する非正規滞在者数の推移を探っていくと、そのカラクリが見えてきます。増減を繰り返していて、増えるタイミングでは必ず何らかの大きな事業が控えているのです。東京オリンピック・パラリンピック然り、大阪万博然りです。長野オリンピックの時もそうでした。長野県警が「ホワイトスノー作戦」という刈り込みを行ったことが、県議会の議事録に残っています。これらのインフラ整備などに駆り出されている間は取り締まりをストップして、終わると刈り込みをするというとんでもないことが繰り返されているのです。にもかかわらず、政府は常に「取り締まっても一定数が減らない」との答弁を反復しているのです。これは完全にミスリードだと、我々は主張しています。

―― 実際のところ、日本を終の棲家にしたいと考えている外国人はたくさんいるのでしょうか? 

鳥井 直近のデータでは約74,000人が非正規滞在者だといわれていますが、母国に帰らずにずっと日本に居続けたいという人は、決して多くはないと考えています。私の分析では、3,000人~4,000人くらいです。その中には日本で生まれ育った、あるいは日本に家族がいるといった人たちはもちろんですが、母国に戻っても経済基盤がない、迫害を受けることが確実視されているという理由から日本に留まりたいという人たちも含まれています。日本社会を脅かす数ではありませんから、人権・人道の観点に立てば、救うことができる人たちです。それだけに、我々としても何とかこの社会に迎え入れたい。

一方、約74,000人のうちのほとんどは、捕まったら文句を言わずに即刻帰国します。出稼ぎという経済的な理由から日本にいるので、敢えて長期滞在する必要がありませんからね。ちなみに彼ら彼女らに対して強制退去とか強制帰国という言葉が使われますが、これは同義語のようで実は異なります。強制退去の場合は自分でチケットを購入して自費で帰国します。ただ、チケットが手に入るまで収容されるというケースはあるようです。これに対して、強制帰国は言葉の通り、強制的に国外送還させる行政手続きです。

帰国を受け入れる人たちが相当数いるにもかかわらず、一定数の非正規滞在外国人がいるのは何故か?  実際には流動的で、日本の経済的な事情に起因して減ったり増えたりしているだけのことです。その意味では、「ゼロプラン」は、まったく体をなしていない政策といえます。むしろ、就労ビザや労働ビザを発行した方が、はるかに効果があるはずです。それをやらないのは、ご都合主義でつじつま合わせをしているからに他なりません。また、入り口がないため、「留学」などといった詭弁を使って労働者を受け入れるしかなくなっています。彼らの多くは、留学生ブローカーたちが入らせているのです。「カネを稼ぐために日本を利用している」というのはミスリードで、事実はまったく違います。

―― 「ゼロプラン」では、正当に保護されるべき外国人までをも排除しようとしているように思えますが、違いますか? 

鳥井 私たちは犯罪にも関わっていないのに「不法滞在」というのはおかしいということで、国連基準で「非正規滞在」と呼んでいます。外国人の人たちと接していると、出稼ぎにきているという意識が強く、悪いことには関わらない、関わりたくないという姿勢の善良な人たちばかりです。実際に外国人の犯罪発生率は日本人より低いですし、「不法滞在」といわれている人たちの発生率はもっと低いことがデータで示されています。

その意味で「不法滞在者=ルールを守らない外国人」という前提に立ち、彼らが「国民の安全・安心に不安を与えている」というレッテルに基づくゼロプランは、正当に保護されるべき外国人までをも排除しかねない施策です。むしろ、適正な保護がなされないがために在留資格を得られない外国人が多数いるということに目を向けるべきです。憲法ならびに国際人権法の観点からもそう考えています。

ヘイトとゼノフォビアを誘発する
レイシャル・プロファイリング

―― 外国の方が増えたという印象のまま、SNSなどでデマや噂が蔓延してしまっているのが、いまの状況だと思います。その状況を変えるにはどうしたらいいのでしょうか?

鳥井 その印象が強いのは、インバウンド、観光に訪れている人たちが爆発的に増えているからですよ。「旅の恥は掻き捨て」という言葉の通り、そういった人たちの方が問題を起こしているわけです。日本人も同じで、かつては世界中で散々顰蹙(ひんしゅく)を買ってきました。いまでも世界遺産への落書きなどが報道されますが、なかでも買春問題は世界中から大きな非難を浴びました。

同様に日本に観光に訪れている外国人の中に、マナーが悪い人や粗相を働く人たちが少なからずいることは確かです。しかし、そこには受け入れる側である日本の観光政策にも問題があると思っています。政府は「観光立国推進基本計画」のもとに2030年までに訪日外国人旅行者数6,000万人という目標を掲げていますが、そこに舵を切るならば、受け入れ体制の整備が必要なはず。ところが、そこでは労働者の受け入れ、日本社会の一員となっている生活者、そしてインバウンドの観光客をごちゃ混ぜにした議論が展開されているのです。

確かに文化や言語、ものの見方や考え方、価値観の異なる人たちが目の前にいたら、不安になるのは分かります。でも、その人たちが何故、日本に来ているのかということが理解できていれば、そんなに怖気付く必要はありません。観光目的なのか、仕事に来ているのか、家族がいるのかということを把握できれば、そうそう被害が及ばないことが分かるわけです。こういった政府の無策の状況を利用しているのが、ヘイトグループに他なりません。外国人を一緒くたにしてデマやフェイクニュースを拡散することで、自分たちの主張を正当化しようとしているのです。加えてヘイトが煽っていることが、あたかも世の趨勢であるかの如く導くミスリードも問題視していく必要があります。

―― 一種のレイシャル・プロファイリングによって、無意識のうちに外国人への嫌悪感が擦り込まれていることが、ヘイトをしやすくしているのでしょうか?

鳥井 仰る通りです。外国人労働者への受け入れ体制が確立されていない日本では、いつまでたっても奴隷労働構造が変わりません。ヘイトが生まれる土壌もそこにあります。産業や地域へのその場しのぎの労働力補充策に終始してきました。

私は外国人労働者の問題で経営側を厳しく追及してきました。しかし、社長さんや農家もまた、ある意味で騙された側なのです。安価な労働力が3年ローテーションで手に入るのですから、誰でも飛びつきたくなりますよね。特に後継者不足や担い手不足が深刻な農業や漁業といった第1次産業では、むしろそこにすがるしかないのです。

このような状況を招いているのは、海外からの人々の受け入れに関して国が妥当性を定める「移民政策」が、常に先送りされてきたからに他なりません。日本政府は、一貫して「移民政策」とは言わずに、「受入れ政策」とか「共生策」と言っています。特に問題なのは、常に「労働力」と「人格」を区分した議論がなされていること。例えば、労働契約では「労働力」に主眼が置かれますが、実際には労働者は生活者でもあるわけです。この2つを切り離して「労働力だけを受け入れる」などといった政策はあり得ません。

にもかかわらず、「受入れ」と「共生」、「職場」と「地域」、「労働」と「生活」といった現実では切り離せない空間を区分することで、まさにフィクションのような歪んだ政策を推し進めています。つまり、社会の一員として受け入れることをせず、「外国人材」という架空のモデルのもとに、「虚構の世界」を築いているわけです。そのことがヘイトスピーチを生み出していると、私は思っています。

―― 参議院議員選挙などにおける議論については、どう思われますか?

鳥井 参議院選挙では、移民の受け入れ拡大に「賛成か?」、「反対か?」というのが争点でした。自民党の総裁選でも争点になりましたが、目新しい論点はなく、どの候補も「ルールを遵守させる」とか「公正な対応」といった言葉で、いかにも外国人が不正をしているかのような論調で、問題を出入国管理とか在留管理へと矮小化していたように思います。

このような状況の中で、ヘイトとゼノフォビア(外国人嫌悪)が誘発されていきます。生活保護や健康保険にタダ乗りしているとか、外免切替の優遇、犯罪の頻発、土地・建物の買い占めなどといったデマとウソが公然と垂れ流され、「日本人ファースト」という流れが生まれていったのです。その意味では、この流れは「官製ヘイト」といても過言ではありません。「ゼロプラン」はもちろんのこと、「秩序ある共生社会」といった言葉の裏には、外国人に対する差別が内包されているからです。2025 年6 月に発表された政府の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の中で、国民の安心・安全の確保のひとつとして「外国人との秩序ある共生社会の実現」が明記されていることは、それを象徴しています。

―― 改定を繰り返している入管法は、少しは良くなっているのですか?

鳥井 まさしく「改悪」の一途をたどっています。2021年に提出された入管法の改定案では、難民申請中の外国人を一律に送還停止する「送還停止効」を見直し、3回目以降の難民申請者については相当な理由がない場合に「送還を可能とする」という内容が盛り込まれました。その時点では、国際法上の「ノン・ルフールマン原則」に基づき国際機関や支援団体から強い懸念が示され、成立しませんでした。これは、難民をはじめとする生命や自由が脅かされる可能性のある人々を、迫害を受ける恐れのある国へ強制送還してはならないという原則で、難民手続きを申請中の人たちも含まれます。

ところが、2023年の改定で再び「送還停止効」を否定する提案が出され、送還が可能になってしまったのです。それに伴い、収容に代えて導入されたのが、先にお話した「監理人」の制度です。収容に代わる措置として、逃亡等を防止しつつ社会内で退去強制手続きを進めることになったので、一見、緩和されたかのようにも思えますが、実態はそうではありません。それは、2024年6月の入管法改定で「送還忌避罪」という送還を妨害した場合に厳罰が科される刑事罰が新設されたことからも明らかです。

―― 外国の方々はどのように反応しているのでしょうか?

鳥井 改悪が審議される中で、川口在住のクルドの人たちが立ち上がりました。国会の参考人としても意見を述べたのに加えて、子どもたちも小学校の黄色い帽子を被って大勢で国会に押し寄せ、「学校に行かせて欲しい!!」と衆議院の議面に帽子を投げ込んで抗議し、その後、大人たちと一緒に記者会見に臨みました。後日談ですが、帽子を集めていた国会の職員が「どうしますか?」と聞いてきたので、私が持ち帰って川口の支援者に返却しました。

この記者会見の様子は、新聞などでもかなり報道されました。ところが、この報道を観て「シメタ」と思った人たちがいました。川崎市で在日韓国人・在日朝鮮人に対して過激な活動を繰り返していたヘイトグループです。川崎市の条例で立ち入り禁止となっていた彼らは、活動する場所を探していました。そこで、一斉に川口市へ向かうわけです。歴史がある在日の人たちの場合は支援の基盤もあって抵抗も強い。これに対して、仮放免で在留しているクルド人たちの基盤が脆弱であることから、標的にされたのでしょう。このように、ヘイトは弱い方弱い方へと向かっていきます。

また、報道などでは「クルド人問題」と謳われることも少なくありません。そのため、報道に接した人は「川口は大変だ」となってしまうわけですが、これはクルド人の問題ではなく、「ヘイト問題」に他なりません。加えてSNSなどでは、とんでもないデマやウソを何万回も発信することが簡単にできてしまいます。ヘイトグループ自体の規模は決して大きくありませんが、このようにヘイトが拡散されることが、問題をさらに深刻にしています。ウソがマコトのように聞こえる人たちがいるからです。このような構図で、日本のヘイトは拡がっています。

―― どうしたら、理不尽で不条理なヘイトを止められるのでしょうか?

鳥井 私は、ファクトチェックしかないと考えています。例えば、健康保険のタダ乗り問題。国会で質問があったので厚生労働省が数万件の調査を実施した結果、「不正利用はゼロ」だったことが判明しました。むしろ、財政面から健康保険を考えると、現役世代の外国人が健康保険に入ってくれていることで、日本の高齢者の医療が支えられています。健康保険の歳入のうちの外国人が占める割合は約4%と、人口比率を上回るからです。しかも、外国人の方が健康保険を使った比率は1.39%に過ぎません。「外国人に仕事を奪われた」という事実を確認してみましたが,欧米の歴史を鑑みてもありませんでした。生活保護についても、外国人はほとんど受けられません。賃金があがらないのも、政府が最低賃金を引き上げてこなかったからですし、日本の労働組合、労働者自身の問題です。結局のところ、その時の政府の産業政策や雇用政策の不十分さを、移民のせいにしているだけなのことなのです。

―― ヘイトグループがアピールする年金問題は、どういう理屈なのでしょうか?

鳥井 理屈など、ありませんよ。年金については「外国人は脱退一時金をもらえるらしい」というキャンペーンが展開されています。日本で社会保険に加入して一定期間働いた場合に、収めた金額の一部が還付される脱退一時金を指して「優遇されている」と言っているようですが、実際には年金がもらえなくなるということですから、まったく筋が通りません。これについては、私たちは30年以上前から政府に「通年協定を結んで年金が受けられるように、さもなければ10年分返還するように」求めています。そして脱退一時金でも少なくとも企業使用者負担分が財源に寄与しています。

ところが、ヘイトする連中は実情をまったく知らずに、「外国人を管理しろ」と言っています。でも、管理すべきは労働者ではなくて、雇用する側ですよね。使用者が適法に雇用する労働者を社会保険加入していれば、こういったことは起こり得ないのです。しかも、脱退一時金は多くの場合、技能実習生が受けています。3年間労働を終えて母国に戻る際に申請するのですが、実際には手続きが煩雑なため、ブローカーが間に入って大きな額をピンハネしています。そのような利権構造を変えるべきだと、逆に我々の側から厚生労働省に訴えているところです。

―― 仮想敵を作ることでヘイトは成立しているというわけですが、心は痛まないのでしょうか?

鳥井 実はこの春、この問題をテーマとする「ABEMA TV」のトーク番組に4回出演しました。私以外は川口市議会の議員をはじめとするヘイトの面々ばかりで、完全アウェーの状況でしたが、議論をしてみて彼らの実像が何となく掴めたような気がしています。彼らの根底にあるのは、「困っている人がいる」というだけ。でも、困っていることの原因は何か⁈ 困っているならどうすればいいか?! ということについては、回答を持ち合わせていませんでした。むしろ、そこを避けているといっても過言ではありません。要は、困っていることを外国人に責任転嫁して、「日本から出ていけ」と声高に叫んでいるのです。

例えば、彼らは「外国人のゴミ問題」というわけですが、自治体によって違い、変更もあるゴミの分別は日本人だってできない人はいるわけですよ。だったら、誰でもできるようにするにはどうしたらいいか? という発想になるのが普通なのですが、そこが欠如してしまっているため、攻撃するしかないのです。

埼玉県会議員などは、平然と「多文化共生などは求めない」と言い切っていました。そういってしまったら、私たちは未来を築けませんよね。いま起こっている事実に対して議論しようという気持ちがみじんもないから、「排除」しか頭に浮かばないわけです。そういう意味では、「明日がない」人たちがヘイトグループなのだと思います。

「民主主義」の追求こそが、
多文化共生社会の構築につながる

―― 排外主義の横行に対して、私たちはどう抗っていけばいいのでしょうか?

鳥井 繰り返しになりますが、「事実(Fact)を追求する力」を高めていくしかないと考えています。最近では中学校や高校に呼ばれて話をする機会も増えていますが、彼らはデータに基づいた事実を素直に受け取り、そこを起点に頭を働かせようとします。私はいまの大学生から下の世代を「SDGs世代」と呼んでいますが、平和教育や人権教育という側面では低下傾向にあるものの、SDGsをキーワードに環境問題に取り組む機会は増えているようで、地球規模で物事を俯瞰できる若者がいることに気付きました。それだけに、移民政策が「地球的共通課題」であることを理解してくれるのです。

一方、バイアスが掛かっている人たちの先入観や偏見、思い込みを翻意させることは簡単ではありません。しかし、だからと言って手をこまねいていたら、地球的共通課題はどんどん先送りになってしまいます。私は100回のヘイトにはそれ以上の回数でファクトを突き付けることで、前進させていきたいと考えています。

―― そういう機運を実感されたことはありますか?

鳥井 私は実際にはヘイトは少数で、共生社会への共感は多くの人たちに拡がりつつあると認識しています。例えば、「信濃毎日新聞」は2021年の1月4日から「五色(いつついろ)のメビウス=ともにはたらき ともにいきる=」というタイトルで多文化共生社会に関する特集を半年に亘って連載し、取材を通じて「日本政府へ10項目の提言」を発表しました。「宮崎日日新聞」も同時期に同様のテーマで半年間の特集を組み、「取材班からの7つの提言」として、①実態把握、②人権問題の解決、③奴隷労働の解消、④移動・定住の自由、⑤支援人材の充足、⑥日本語教育支援、⑦人権保護条例の策定を柱とする「みやざきモデル」を提唱しています。ここに示された「10項目」ならびに「7つの提言」は、私たちが主張してきたことと、ほぼ変わらない内容です。

このように地方では外国人の人たちと上手くやっていかないと、自分たちの地域が成り立たなくなるという実感が強く、年齢や職業を超えた動きが活発化しています。このことに象徴されるように、共生を求める声が間違いなく拡がっていることは確かです。

―― 在留外国人との共生は、これまでのさまざまな差別や人権侵害を是正していくチャンスになるというわけですね。最後にブレークスルーのためのヒントを教えてください。

鳥井 外国人問題という言葉であったとしても、少なくとも移民問題を議論しようとする機運は醸成されつつあるわけです。何故、これだけヘイトが蔓延したかというと、人権問題や環境問題を含めた、いわゆる運動側や野党といわれる人たちが、移民問題を避けて正面から真摯に議論してこなかったという責任もあると考えています。いみじくも元参議院議員の石川 大我さんが「票にならなかった外国人問題が、票になるようになった」と発言していましたが、言い得て妙だと思いました。外国籍の人は選挙権がないだけに、そう思う議員の人たちが、野党の中にもたくさんいるのではないかと推測しています。つまり、国会では人権問題を取り上げていたとしても、地元に帰った際には移民問題をスルーしてきた可能性があるということです。私が知っている限りでは、「外国人基本法が必要だ」と選挙演説で明言していた人は数えるほどしかいません。つまり、「社会をどうするか」という視点を持った政治家が少なすぎたのです。まずは選挙の候補者選びや投票などを通じて、そこを変えていくことがポイントで、気候変動や環境問題との共通点もたくさんあるので、つながっていくことを切に願っているところです。

また、現実を直視すれば、日本で働く外国人も納税者であるわけです。外国人の人たちの納税額が国家予算のうち、どれくらいの割合を占めているかなどということは、調べればすぐに判るのに、外国人が日本に貢献していることを示すデータは、ほとんど公開されていません。こういった視点はまだまだたくさんあるはずなので、その事実を示しながら、外国人の参政権などの議論へと高めていければ、山は動くと考えています。

もう1つ。稼ぐことだけを考えたら、もっと条件がいい国はたくさんあるはず。それなのに何故、外国の人たちが日本を働き場所として選んでいるかということ。それは、安心・安全な国だと考えているからです。これを深掘りしていくと、戦後民主主義にたどりつきます。つまり、私たち日本社会が誇るべきことは、「戦争しない」、「戦争させない」、「核を持たない」を続けてきたこと。多文化共生社会を築いていく上でも、このスタンスを忘れてはなりません。