【インタビュー】桃井貴子さんに聞く「気候危機を選挙の争点にしよう!!」衆議院議員選挙2024を振り返って
9月27日に開票された自民党総裁選で選出された石破 茂新総裁は急遽、衆議院解散総選挙に打って出て、10月27日に投開票が行われた。結果は周知の通りだが、問題は「気候変動問題」が選挙の争点にすらならなかったことだ。それは何故なのか? どうすればこの問題を選挙の争点にすることができるのか? 国政選挙の度に「政党マニフェスト 評価」を発表している気候ネットワーク(以下:気候ネット)の桃井 貴子東京事務所長に聞いた。
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
桃井 貴子さん
フロン問題に関する環境NGOのスタッフ在職中、“市民立法”として「フロン回収・破壊法」の制定に尽力。その後、衆議院議員秘書、全国地球温暖化防止活動推進センター職員を経て、2008年より気候ネットワークスタッフとなり、現在は東京事務所長を務める。
立川市市会議員
山本 ようすけ(インタビューアー)
1990 年、東京都武蔵村山市生まれ。一橋大学に入学し、貧困問題を主軸としつつもジェンダー、心理学、歴史、哲学、経済学、政治学等にも触れる。卒業後は外資系コンサルティング会社に就職するも、2018年に立川市議会議員選挙に立候補し、当選。政策提案は「若者の政治参加」。緑の党グリーンズジャパン運営委員、NPO法人さんきゅうハウス理事、気候危機・自治体議員の会(呼びかけ人)なども務める。
日本国民は「気候変動問題」には消極的?!
2024衆議院選挙の争点にならなかった背景
―― 今回の総選挙においては残念ながら、「気候変動問題」はほとんど争点になりませんでした。まずはその展望すら描けなかった理由や背景をどう捉えていますか?
桃井 私自身、長らく気候変動問題に関わってきて、気候変動に対する運動そのものは、それなりに盛り上がってきているという実感もあるのですが、今回に限らず国政選挙のテーマとして選挙の争点にならないことは本当に問題だと思っています。やはり、世論としての気候変動への危機感が薄いと捉えざるを得ません。世論が高まり、メディアなどで取り上げられる機会が増えていけばメインイシューとなり、「何とかしなければいけない」となるのでしょうが、まだその域には達していないということなのだと思います。
―― 今夏の猛暑、台風や豪雨被害を鑑みても、気候変動問題が国民の生活を脅かしていることは顕著です。それでも、選挙の争点にならないのはどうしてなのでしょうか?
桃井 そこには、国や政府の思惑もあるように感じてます。ある意味、メディアへの操作を含めて、政策的課題とならないよう仕掛けられている状況もあるでしょう。猛暑により熱中症で搬送される人の数はうなぎのぼりでしたし、亡くなった人も1,000名を超えました。また、正月の大地震で甚大な被害を受けた能登では、追い打ちをかけるように今度は豪雨にさらされ、尊い命が失われました。このような気候変動に伴う被害は全国各地に及んでおり、このことはイベント・アトリビューション※01により地球温暖化が関係していることが明らかになっています。
将来的により深刻な危機を回避するためにも、温室効果ガスの大幅削減対策を講じる必要があることは明白ですし、そのためには1人ひとりが猛暑や豪雨などの気候変動問題と政治をつなげて考えるマインドが必要となります。ところが、そういうマインドを醸成するための機会が、日本においては極めて少ないのです。例えば、メディアは被害状況については報道しますが、その被害をもたらす原因、つまり私たち人間活動によるものだという点についてほとんど深く触れることはありません。そして、こうした気候災害を「天災なのだから仕方がない」と受容するようなコメントをたびたび耳にします。結果、災害支援や防災の議論はするものの、その手前で何をすべきかという議論は置き去りにされてしまっています。それが、現在の日本の現状なのだと思います。
※01:人間活動による気候変動が、観測されたような異常気象の発生確率や強度をどの程度変えてきたか定量評価(数値として表す)」するテクノロジー
―― このままではいけないと自覚していますが、選挙に立候補している側として、やはり気候変動対策よりも防災対策を訴えた方が、実感として手応えがあります。気候変動の方がよっぽど根本的な対策になり得るはずなのに、そう感じてもらえないジレンマを脱却していくには、出力を上げていくだけではなく、解像度を高めていく必要があると感じています。その辺りで、欧米の状況はどうなのでしょうか?
桃井 日本では欧米など諸外国に比べて気候変動に対する危機感や緊急性の意識が薄く、政治や政策と結びついていない人が多いように思います。それだけに、気候変動対策を一丁目一番地に掲げて当選するのは難しいかもしれませんね。
また私見ではありますが、多くの人は安易に政府や大企業に対しての信頼度が高く、「長いものに巻かれろ」という感覚もあるのではないでしょうか。「脱炭素」や「カーボンニュートラル」など目にする機会は増え、「政府や大手企業が世の中の常識を逸脱することはしないだろう」という変な安心感というか、日本はちゃんと対策しているだろうという信頼感が根強く残っているような気がします。
その結果、気候変動問題については政府の具体的な政策に対して「チェックしよう」とはならないわけです。「電力やエネルギーの安定供給が必要」とする政府やエネルギー会社の主張を鵜呑みにしてしまって、気候変動対策へとマインドが向いていかない。むしろ、政府が示す「技術力を発揮して世界に解決策を提示していくことが日本の役割」というロジックに乗っかってしまっているように思えてなりません。
一方、ヨーロッパなどでは歴史的に「自分たちで政府がやっていることをチェックしていこう」という風潮があります。また、エネルギー企業などのグリーンウォッシュ的な広告も厳しく制限される傾向にあります。特に科学的根拠と政府や企業の方針が矛盾していると感じれば声をあげることは当たり前で、「デモに参加する」といったような社会性が、小さい頃から身に付いているのだと思います。実際にヨーロッパはもちろんのこと、韓国などでもデモの規模感が日本より格段に大きく、こうしたデモによって政治が動かされていると感じます。私も若い時からデモに参加していますが、一都市で数万人集まる海外のデモと日本のデモは全く様相が異なります。
―― 「長いものに巻かれろ」という感覚があることは否めませんが、個人的には政府に対する信頼は決して高くないようにも思いますが、いかがでしょうか?
桃井 確かに気候変動とは別に、政治家に対する不信感は多くの人がありますよね。その一方で、経済産業省や環境省など、政府の政策立案を担っている省庁に対してはどうでしょうか。何かやってくれているだろうというお任せ状態の安心感というか、そもそも関心を向けるきっかけもない。。気候変動の主要政策であるエネルギー政策は、国会ではなく、経済産業省が大半を決めています。国会は本来、行政を監視し、政策を方向づける唯一の場であるはずですが、その国会でまともな議論がなされていません。同時に記者クラブなどに流される関連省庁の情報は、客観報道主義という原理原則のもとに、ほとんどが政府や省庁の発言をコピーしたまま、テレビや新聞で報道されます。これでは、市民がウォッチもチェックもできません。
結局、国民は批判する材料が希薄なまま、釈然としないながらも政策を受け入れるしか術がなく、政府を監視する機会を奪われてしまっているのが現実です。いわば「偽りの信頼」がまかり通ってしまい、問題や課題はなおざりになってしまっていることに、危機感を募らせています。
―― 官公庁をはじめとする行政機関の力が強く、それに対してメディアの監視も機能不全に陥っているということですね。その中で気候ネットでは毎回、「国政選挙での政党マニフェスト 評価」を発表されています。今回の衆議院議員選挙は、どのように分析されていますか?
桃井 今回、10月1日に石破茂内閣が発足し、政権誕生からわずか8日で衆議院が解散したという戦後最短の解散総選挙で、非常に慌ただしく公示日前後にマニフェストや政策集が各党から発表されました。私たちの各党マニフェスト評価もそれに振り回されて何度も改訂することになってしまったのですが、結果的には気候変動対策に後ろ向きな与党、さらに与党に近い政策を国民民主党、日本維新の会などがこれまでの公約からも大きく後退し、ほとんど与党と同様の公約となっていました。つまり、削減目標は1.5℃に整合するような意欲的目標を示さず、石炭火力のアンモニア混焼などを推進して維持温存する方針です。一方、立憲民主党は、再エネ目標は2050年100%と掲げたものの、中期的な政策はあいまいさが残りました。日本共産党、れいわ新選組、社会民主党は気候変動対策に前向きな公約を示しています。
―― 原発に関する記載はどうなのでしょうか?
桃井 原発については、自民党が既存の原発の最大限活用や、次世代革新炉の開発・建設や核燃料サイクルの推進など原発に前のめりな公約を打ち出しました。また、これまでは原発に慎重な公約を出していた日本維新の会や国民民主党もまた、今回は次世代原子力発電の活用推進、次世代革新炉の開発・建設の推進に舵を切っています。一方、与党でも公明党は若干立場が異なり、「原発の依存度を低減しつつ、将来的に原子力発電に依存しない社会」としています。原発にNOを打ち出したのは、立憲民主党の「原発ゼロ社会を一日も早く実現」との公約のほか、日本共産党、れいわ新選組、社民党は明確な脱原発の立場をとっています。
―― 気候ネットでは国政選挙に合わせて毎回、「政党マニフェスト 評価」を発表してますが、そこでのポイントはやはりCO2ならびに削減目標、石炭火力、再エネ、原発になるのでしょうか?
桃井 確かにこれらを軸にチェックして、各党に政策の見直しを促そうとし、今回もこれまでと同じ指標で評価しました。
加えて、今後は石炭火力だけではなく「脱化石燃料」に対する姿勢も不可欠になってきます。政府は石炭火力発電所を「新規では建設しない」という方針を打ち出しているものの、LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)火力がものすごい勢いで増えているのです。今後、1,000万kW(キロワット)相当分のLNG火力発電所を新規で建設する方針が打ち出されています。本来は火力発電を「いかに早く止めるか」が重要であるはずなのに、そういう方向には向いていないのです。
いまから新規で大規模な火力発電所を建設するということを認めてしまうと、政府が2020年10月に宣言した「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標の実現は益々遠のきます。2050年を超えてもカーボンニュートラルどころではなく、大量のCO2を放出する社会が続き未来に負の遺産を引き継ぐことにつながりかねません。
「1.5℃目標」を達成するためには、世界全体の温室効果ガスを2019年比で2030年までに43%削減(CO2は48%削減)、2035年までに60%削減(CO2は65%削減)、2040年までに69%削減(CO2は80%削減)にする必要があります。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)は、気温上昇が一時的に1.5度を超える場合、超えない場合と比較して損失と損害が増加すること、人も自然も適応の限界に達するであろうことなどといった警鐘を鳴らしています。その意味で、日本政府は「1.5度目標」に整合しない空虚な政策ばかりが進められているのです。この辺りも重要なチェックポイントとなるはずです。
人類の生存が関わる問題ですから、与野党問わず、すべての政党が気候変動対策に向き合い、意欲的に頑張って欲しいという思いはあります。気候変動について再考を促していくためにも、今後も密なコミュニケーションを図りつつ、エールを送り続けていく必要はあると考えています。
国際社会の中で逆行する日本
世界との約束を守れる国にしよう!!
―― 気候変動対策に対する世界の趨勢は、COPをはじめとする国際会議やIPCCが指摘する科学的な根拠に準拠しつつあると思われますが、その点、日本はどうなのでしょうか?
桃井 国際合意を日本の政策に位置付けることは、非常に大切だと考えています。前回のCOP28(2023年12月13日にドバイで開催)では、「化石燃料からの脱却」が1つの焦点として打ち出されました。当然、日本もそこに合意しています。
ところが、日本は石炭火力については、とりあえず「新規の発電所は建設しない」と明言したものの、アンモニア混焼を切り札に既存の石炭火力を延命したり、LNG火力の新設を新たに促したりと、本来の「脱炭素」とは大きな矛盾をはらんだ政策や方針を進めています。それが「国際合意に整合しているか?」という疑問を投げ掛けていくことを、日本のエネルギー政策における重要な論点とする必要があると考えています。
―― CO28では2019年比で再生可能エネルギーを「3倍に増やす」、省エネを「2倍にする」という合意がなされていますよね。ここでの日本のスタンスは?
桃井 そのことには当然、日本も合意しています。ただし、「全世界で」ということには合意したものの、日本国内での対応については、いまのところ考えている体はありません。
また、石炭火力についてはG7(主要国首脳会議)での合意にもとに、「1.5度目標」に整合するか、もしくは2035年までの早い段階で対策が講じられていない石炭火力をフェーズアウト(段階的廃止)するということが決まっています。ここでポイントとなるのが、「対策」を講じているか否かです。
日本では現在、163基の石炭火力発電所が稼働しています。これに対して日本政府は、新たに「容量市場」と呼ばれる事実上の補助金制度を設けることで、今後も石炭火力を維持・継続できる仕組みを導入しました。容量市場とは、電力量(kWh)ではなく、将来の供給力(kW)を取引する市場です。将来にわたる我が国全体の供給力を効率的に確保する仕組みとして、発電所などの供給力を金銭価値化することで、多様な発電事業者等が市場に参加し、落札した電源に対してオークションでの約定価格で決まった金額を得ることができます。このしくみによって原発や火力が維持され、再エネ導入を阻害し、気候変動対策の1.5℃目標の達成も困難となります。段階的に火力発電をなくすという流れにも逆行しているからです。
こうした国内での対応を国際社会、とりわけG7に対してどうやって説明していくのでしょうか。
―― 本来ならば、火力発電を撤廃する方向に向かうのが筋であるのに、詭弁ともいえる「対策」で言い逃れしようとしているのでしょうか?
桃井 「対策のとられていない石炭火力の全廃」というとき、国際的な認識に基づけば、日本の既存の石炭火力発電は全て対象になると考えるのが妥当です。IPCCは、「対策がとられた石炭火力」とは、例えばCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留技術)などを採用して、発電所や工場などから排出されたCO2を他の気体から分離・回収し、回収されたCO2を地中や海底などに貯留し、90%以上のCO2が回収されたものを指すとしています。つまり、CCSのような対策が取れていない石炭火力発電から段階的に廃止して、できるだけ早い段階で「ゼロ」にするという、いわゆるフェーズアウトが世界の趨勢であり、合意でもあるのです。しかし、日本は独自の解釈で、高効率石炭火力やアンモニア混焼の石炭火力を「対策のとられた」ものとみなそうとしているのです。
―― 気候変動を巡っては、ヨーロッパが先進国のようにいわれていますが、ここでも新たなせめぎ合いや論争が巻き起こっているようです。そこにはどのような背景があるのでしょうか?
桃井 ヨーロッパでも極右政党の台頭などによってこれまでの情勢とは様子が変わってきている面もあるかもしれません。。とはいえ、再エネがコスト面で最も安くなり、経済合理性から原発・火力から脱却し、再エネシフトに向けてすでに一定の方向性が築かれていると認識しています。それだけに、こと気候変動対策において、真逆に逆ブレするような深刻な方向にはならないのではないかと考えています。ただし、より加速度的に、かつ深掘りした気候変動対策を進めていく上で、スピードが鈍化してしまう可能性があることは懸念しています。
それと欧米の場合、気候変動問題を巡る裁判があちこちで起きていますよね。これらについては、裁判所が三権分立に基づいた独立した視点に基づき、気候変動問題を進めるべく原告側の主張を反映した良心的な判決が顕著になされているようです。それだけに、裁判の判決によって進んでいく部分も、多いのではないかと考えています。
この点も、政治的な影響力に左右される日本の裁判所とは大きく異なるところですね。ただし、これまでの日本の裁判では厳しい判決が下されてきたものの、一方で数多くの科学的なエビデンスが示されつつあるので、今後については期待したいと思います。
―― EUなどではEV車の購入を促進するような補助金制度とともに、義務化に向けて罰則規定を設けるといった政策が進められています。その辺りの法整備が進んでいないことも、日本で気候変動への関心が高まらない一因ではないでしょうか?
桃井 それはあると思います。EUでは需要の喚起と規制強化をセットで考えて、気候変動に対応したバランスを再構築しようとしています。一方、日本ではGXの名のもとに、大規模な火力発電所でアンモニア混焼を進めている電力大手、そしてその原料を輸入する商社などにしっかり資金が流れる仕組みだけ作って、規制すらしていません。
また、ヨーロッパをはじめとする世界の国々は、すでに「カーボンプライシング」を前提とした政策を進めています。「炭素税」、「排出量取引」とも呼ばれ、企業などの排出するCO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策です。
この流れは一応、2023年5月に成立した「GX推進法」においても盛り込まれています。「GX推進法」は今後10年間に150兆円を超える官民GX投資を実現・実行することを目指した法律ですが、そこでは排出量取引制度の本格導入を含む「成長志向型カーボンプライシング構想」なるものが謳われていますが、これもまた世界の趨勢とかけ離れた内容になりそうです。
というのも、発電事業者への実質的な導入が始まるのは2033年からで、話が先過ぎて2030年、2035年を目途とする世界の数値目標に間に合わせようとする気配はみじんも感じられません。しかも、「どのような税率を課すのか?」などもまだ全く白紙状態です。発電事業者や大企業を優遇してきた政府のこれまでの対応を鑑みると、削減効果のある税率になるのかかなり疑問です。
科学的なエビデンスに基づくならば、2035年までに世界全体で「60%以上(2019 年比)の温室効果ガス削減」を達成するという目標が差し迫っています。実際には、時間だけが経過して、世界全体の排出量は逆に増え、カーボンバジェット(炭素収支)を食いつぶしている状況なのです。にも関わらず、日本政府が「2033年」をターゲットにしていること自体に大きな疑問を感じざるを得ません。残された時間が限りなく少ない中で、是非、その危機感をより多くの人たちと共有できることを切に願っています。
健康的に暮らす、日常を守るを原点に、
気候変動対策を訴え、転換していこう!!
――今回の選挙は、「政治とカネの問題」、「物価高と賃金」、「夫婦別姓」、「安全保障」、「少子化問題」などが争点としてクローズアップされました。実はこれらの問題も、気候変動と決して無縁ではないと思われます。いかがでしょうか?
桃井 気候変動問題を入口にしてしまうと、関心がある人とそうではない人に大別され、現状ではそうではない人の方が多いというのが現状かもしれません。ところが、入り口を「日々の電気代を考えてみよう」としてみると、多くの人が関心を持つでしょう。実際に、電気代がどんどん値上がりして、生活の中でどうやって節約しようと考え、行動している人たちがたくさんいます。
その意味で、このまま化石燃料依存の社会とか、原発を続けていく社会であり続けると、電気代は上昇の一途を辿るはずです。なので、まずは「電気代がうなぎ上りになってもいいですか?」と問うことが、多くの人たちを動かすことにつながるような気がします。
政府は火力・原子力発電を維持することを目的に、電気代が値上げに向かう要素がある政策ばかりを導入したり、検討したりしているからです。先に述べた容量市場もそうですし、長期脱炭素電源オークションも然りで、さらには原子炉新設を支援するために政府が検討を進めているイギリスのRABモデルの導入に至っては、多額の費⽤を建設期間中から私たちの電気代に転嫁しようとしています。私たちが知らないところで、こういうことがどんどん決められてしまっているのです。
結局、困ったことになるのは私たち国民に他なりません。「知らぬが仏」ではなく、「知は力なり」ということを訴えていくことは、大切だと思います。
――日本の選挙の特徴としてあげられるのが、投票率が低い、政権交代がほとんどないということだと思います。その意味で、気候変動をメインディッシュしなくても、共感してもらえる方法があるということですね。
桃井 現在のウラ金問題に、憤りを感じている人たちはたくさんいますよね。その怒りは主にウラ金を受け取ったり、隠したりしている議員に向けられていると思いますが、実際にパーティー券を購入しているのは、自社の事業を優位にするための企業であったりもするわけです。このような問題は、たまたま起こっているわけではなく、むしろ構造的な問題だと考えています。企業から政治家への献金が止まらない限り、その構造は変わりません。
これは、気候変動問題においてもいえることです。政府が掲げるGXでは、経団連に加盟しているような大企業に巨額の資金が流れる仕組みが築かれています。片や経済団体や企業団体が政治献金を奨励するような動きを見せているのは、ある程度、法律で守られているからです。このような構造的な問題が、私たちが収めている税金で成り立っていることも決して忘れてはなりません。
――気候変動訴訟などでは、対策が進まないことによって、日本国憲法で定められている基本的人権や生存権が侵害されているとするアピールも展開されています。国民に課す法律とは違って、憲法は為政者が暴走しないための縛りですが、そういう訴え方はいかがでしょうか?
桃井 気候変動問題によって人権や生存権が脅かされていることは間違いありませんが、憲法視点のアプローチが多くの国民に響くかというと、気候変動問題と同様に二分される傾向にあるように思います。国民の側も憲法を深く理解して、為政者を十分にチェックしようとしている国民は、決して多くないと想定されるからです。
その観点からすると、私たちの生活が日々、健康であり、日常が保たれ続けるためには何が必要か? という問いを入口にした方がいいのかもしれません。健康や日常を大切にすることが、気候変動問題と同じベクトルを示していると考えるからです。
――気候変動による地球温暖化は、確かに猛暑や自然災害の甚大化、食糧問題などを引き起こしているので、確かに日々の生活から実感できますね。
桃井 実は私自身も母の介護をきっかけにバリアフリー設計の高気密・高断熱の家に引っ越しました。介護のために居住空間に温度差がない健康的な家に住み、太陽光パネルや蓄電池なども設置して生活してみると、なにも施されていなかった昔ながらの以前の家との違いを多くの点で実感しています。まず、月々掛かっていた光熱費が、大幅に削減されました。前の家では高い時には月額で30,000円を超えていたのがほぼ一年通じて毎月一定の4,000円程度になり、CO2の排出も8割程度減っています。要は「健康的に暮らす」ということを突き詰めていった結果として、高気密・高断熱や太陽光パネルに辿り着いたわけです。私は気候変動問題に取り組んできましたが、アイテムを揃えることで、これだけの効果があるとは想像していませんでした。
ここで言いたいことは、「健康的に暮らす」、「日常を守る」ということを個々が総合的に追求していけば、「未来が拓ける」ということです。逆にいえば、そこをバックアップするような政策があれば、誰もが強い問題意識を持たなくても、気候変動対策に参加できているという可能性があるということです。
今後、気候変動が人々の暮らしや生活にますます大きな打撃を与えることは想像に難くありません。猛暑が続く中で熱中症にならないためには、四六時中クーラーを稼働させる必要がありますし、毎年のように雨量記録を更新している集中豪雨などで尊い命が失われることは少しでも減らしていかなくてはなりません。そういった人に寄り添う政策を、各党には熟慮の上で訴えていっていただきたいと切に願っています。
――1人ひとりの幸せを追求することにつながる気候変動対策ですね。ただ、実際には「目的」なき対策が多いように思えますが、いかがでしょうか?
桃井 手段が目的化してしまっている典型が、「脱炭素」です。例えば、水素を推進するという政策は、日本の排出量をゼロに近づけるための手段にはなり得ますが、一方で海外に依存して膨大な水素を造らせ、現地で膨大なCO2を排出しています。これでは何のための「脱炭素」か分かりません。本末転倒で、単なる数合わせをしているに過ぎないといえます。
一口に気候変動対策といっても、実際には「脱炭素」のみならず、貧困や食糧問題、防災や人々の健康など、さまざまな要素を内包しています。それだけに、まずは将来視点に立って本質的な目的を定めるべきです。そこから俯瞰して、どのような手段を組み合わせていけば目的を達成できるかを考え、講じていく必要があります。いまのままでは、手段に群がる人たちに利益を還元するだけで終わってしまうような気がしてなりません。
――国政選挙で訴えることができるイシューや政策は総花的になりがちです。私も地方議員の1人として地域に寄り添うことを信条に活動していますが、それを国政選挙に反映させていく術はあるのでしょうか?
桃井 いまのエネルギー政策自体が人々の暮らしから物理的にも論理的にも遠すぎるところに位置付けられているように思えてなりません。政府が進める再エネでは、メガソーラーにしても大規模風力発電にしても、いわゆる大資本しか参入できないからです。これでは根本的な構造は変わりません。これまでの原発や火力発電と同じように、都会が消費する電力を地方が賄い続けていくことになるでしょう。
根本的な構造を変えるためには、やはり地産地消の発想でエネルギーの発生源を私たちの近いところに取り戻していくことが大切なんだと考えています。そのことは、単に再エネによる供給量を増やすということだけではなく、防災の観点からも重要だからです。
例えば、避難所1つとっても、現状では大きな災害が起きた際には、夏は暑く、冬は寒いような体育館や公民館のようなところで雑魚寝することを強いられています。避難所になるような場所の環境を整え、建物の断熱性・気密性を高くして、空調のための電気を再エネで担保するだけでも、状況は大きく変わってきます。山本さんも学校の断熱化や公共施設の再エネ化に取り組んでおられるとお聞きしましたが、それぞれの地域でそういった方向の取り組みを進めることは、とても大事なことだと思います。地域での取り組みの成果が積み重なって、いずれ国政を動かすことになると期待しています。