【報告】ドイツ緑の党 連邦議会議員ベアベル・ヘーン来日  「どうする?!核のゴミ・・・

【報告】ドイツ緑の党 連邦議会議員ベアベル・ヘーン来日
  「どうする?!核のゴミ-最終処分と合意形成を考える日独シンポジウム」開催


去る7月31日(金)、緑の党グリーンズジャパンは、ドイツ緑の党ベアベル・ヘーン連邦議会議員の来日に伴い、原子力市民委員会、eシフト、A SEED JAPAN、FoE Japanとの共催で「どうする?!核のゴミ - 最終処分と合意形成を考える日独シンポジウム」を日比谷図書文化館にて開催しました。今回で4度目の来日となるヘーンさんは、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)主催による世界大会に参加するために来日し、8月9日まで福島、広島、そして長崎とハードなスケジュールをこなしていきます。

ドイツと同様、日本はこれまでの原発政策によって発生した核のゴミの最終処分地を選定しなければならないという難しい問題を抱えています。日本では「自治体が名乗りをあげる」という方式から、国が候補地を選定する方式へ転換される一方で、ドイツでは、これまでの最終処分場に係る議論が2013年にすべて白紙撤回され、2014年に連邦議会のもとに「最終処分場委員会」がつくられ、新たな議論が始まったところです。ヘーンさんは、その委員会が所属しているドイツ連邦議会、環境・自然保護・建設・原子炉安全委員会の委員長をつとめ、政党間の意見などを調整するという難しい役割を果たしています。

シンポジウムでは、まずヘーンさんよりドイツの最終処分場の現状と意志決定プロセスについてヘーンさんの講演がありました。ドイツ政府のロードマップによれば、地層処分によって保管される高レベル放射性廃棄物は、2095年になってはじめて封印され、そこから気の遠くなるような(年数さえ分からないような)モニタリング期間が続くことになります。ドイツでは電力会社の倒産を回避するため、不良資産となった原発施設をバッドバンクとして整理する構想も議論されていますが、「利益は民間企業が得、リスクとコストは公共で負う」ということには反対であると力強く語っていました。


伴さん日本側からは、原子力資料情報室の伴英幸さんより日本の議論の現状について報告がありました。地層処分方針への経過や複雑な組織の変遷によって、市民からは議論の中身が非常に見えにくい状況になっている点など、組織・体制の問題点が指摘されました。また、原子力政策に対する社会的な合意がないにもかかわらず、処分地選定を進めようとするのは本末転倒との指摘については、ドイツとの違いがあらためて浮き彫りになりました。


その後のパネルディスカッションでは、FoE Japanの吉田明子さん、A SEED JAPANの西島香織さん、そして地層処分問題研究グループの志津里公子さん、そしてヘーンさんと、登壇した四人すべてが女性。信州大学の准教授で、原子力市民委員会・第二部会のメンバーでもある茅野恒秀さんのコーディネートで議論がすすめられました。吉田さん

吉田さん(FoE Japan)からは、ドイツの環境保護団体BUND(ドイツのFoE)には当初、最終処分場委員会への参加を見合わせるとの議論があったことが報告されました。原発推進派も多くかかわる最終処分場委員会への参加は、時間と費用だけでなく、環境保護の立場から市民との軋轢を覚悟しなければならない一方で、市民側の参加は何としても確保したいというジレンマの中で揺れ動いた経緯の説明がありました。

志津里さん志津里公子さん(地層処分問題研究グループ)からは、これまでの政府との交渉の難しさ、苦労した経験などを語りました。双方向コミュニケーションを目指すシンポジウムを数回開催される中、原発政策を推進する立場の人は、「原発に反対する人は無知ゆえに反対している」として、聞く耳を持たないように見えたこと、そして対等の議論の場がほとんどもたれなかった点などが指摘されました。


西島香織さん(A SEED JAPAN)からは、若者の視点から原子力政策とお金の流れに関する疑西島さん問点が出されるとともに、「日本学術会議が提言した“総量規制”を前提に処分方法を考えるべき」、「指定廃棄物処分の現状も踏まえ、環境省含めて横断的な議論をすべき」、「“科学的有望地”の中に第一次産業への影響を入れ込むべき」などの提言がだされました。また、2014年に行った再処理工場のある六ヶ所村訪問の報告などがなされ、「加害・被害を超えて、都市(東京)と地域(農村)をつなぎ、同じ未来を描きたい」との思いを語りました。

「核のゴミ」と「合意形成」というテーマでシンポジウムを行いましたが、ドイツのように合意形成の枠組みとロードマップに基づき体系的に取り組む以前に、日本ではいくつかの課題が明らかにされました。複雑な行政組織や議論経緯をフォローしていくことの難しさと、それを分かりやすく伝える仲介役の重要性や、市民側も専門的な議論に耐えうる知識なども持たなければならないことが明らかになりました。また、合意形成議論の前提においても、民主主義的な意志決定プロセスに対して、政治・社会・教育など基礎から考える必要性が感じられました。

また、ヘーンさんがパネルディスカッションの中で述べていた「国主導で強引に結論(最終処分場の決定)を急ごうとすると、反対運動などにより結果的に長いプロセスを必要とする。合意形成には時間をかけて議論することが大事である」という言葉が印象的でした。

シンポジウムでは限られた時間でしたが、ヘーンさんのドイツでの経験も踏まえ、興味深い議論ができました。しかし、議論にはまだまだ時間が必要で、今回のシンポジウムをスタートとして、今後は枠組みを広げたり、テーマを絞ったりするなど、私たちが抱えてしまった「核のゴミの最終処分場」についてしっかりと議論をし、知見を深める機会をつくっていきたいと考えています。
パネルディスカッション_PYE6801

私たちは、大きすぎる問題については、「エレファント・イン・ザ・ルーム」という言葉で揶揄されるように誰も話したがらないものですが、今後は目の前にある問題をしっかりと見据え、議論をしていく姿勢が問われています。最終処分場についての議論は、非常に困難なプロセスではあり、市民運動を担ってきた人々の間でも衝突があるかもしれません。しかしながら、ドイツが勇気を持ってその一歩を踏み出したように、日本でももっと幅広い議論が展開されるべきであり、それが民主主義の成熟につながっていくと考えます。

シンポジウムの講演はこちら

 
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