アイヌ語で 「緑の党」 

 

<もくじ>

 ■ 緑の党HPのアイヌ語翻訳にあたって

 ■ 緑の党について Siwnin u-utar シウニン ウ ウタラ

 ■ 結成宣言 Siwnin u-utar u-e-karpap u-hotuypap
          シウニン ウウタラ ウエカラパップ ウホ トゥイパップ

 ■ 緑の社会ビジョン Siwnin utar sasuy-sir シウニン ウタラ サスイシリ
   
前文 / 各論

 


 

 緑の党HPのアイヌ語翻訳にあたって 

緑の党は、世界の緑の党のネットワークであるグローバル・グリーンズと共に、次の6つの基本理念を掲げています。
  1.エコロジカルな知恵
  2.社会的公正
  3.参加民主主義
  4.非暴力
  5.持続可能性
  6.多様性の尊重
言うまでもなく、緑の党という党名に直接関連し、緑の党の目的として最も重要な柱は「エコロジカルな知恵」「持続可能性」です。

そして、口では誰しも「環境」と言うようになりましたが、緑の党の金看板であり、しかも環境保全とも表裏一体の関係にあるのが「参加民主主義=多様性の尊重」です。
3.11以降の一連の流れは、一部の人々のみが意思決定を独占しては、決して環境が保全されないことを明らかにしました。普通の一般市民が実質的な意味において社会の意思決定に参加することは、将来世代やすべての生き物をも含んだ、すべての生命を尊重するために不可欠です。なおかつ、普通の一般市民が社会の意思決定に参加することがなぜ重要かと言えば、一部の専門家だけでなく、様々な意見、様々な感性が社会の意思決定に反映させることこそが社会が一方向に(より多く、より強く・・・)進んでしまわないために重要だからです。
従って、様々な民族、様々なジェンダー、様々な…をもつ人々が社会に参加してこそ参加民主主義が現実のものとなるのであって、「参加民主主義」と「多様性の尊重」は互いに切り離せない関係にあります。この特徴(参加民主主義=多様性の尊重)こそが、緑の党と他の党との違いを最も明確に示すものといえます。

ここで言うまでもなく、日本列島における民族的多様性を考えるにあたって、アイヌ民族の存在を忘れることはできません。とりわけ明治以来、日本政府は「暴力的に」アイヌ民族の権利を奪い、そして「社会的公正」を傷つけていきました。今年に入って、国連の社会権規約委員会は日本政府に対し、次の勧告を行っています(下線は笠原)。
「30.委員会は、アイヌ民族が先住民族として認められ、かつその他の進展が達成されたにも関わらず、経済的、社会的および文化的権利の享受に関してアイヌ民族が不利な立場に置かれたままであることを依然として懸念する。委員会は、アイヌ語が消滅の危機にあることをとりわけ懸念する。(第15条、第2条第2項)
委員会は、締約国が、アイヌ民族の生活水準を向上させるための努力を強化し、かつ、とくに雇用および教育の分野において追加的な特別措置を実施するよう勧告する。委員会は、これらの措置を、北海道外在住のアイヌ民族に対しても適用するよう勧告する。委員会は、締約国に対し、アイヌ語を保全しかつ振興するためにとられた措置の成果に関する情報を次回の定期報告書に記載するよう要請する。」

幸い、小生も多少アイヌ語を勉強していますので(テキストで多少かじった程度ですが)、試みに緑の党HPの重要部分をアイヌ語に翻訳してみました。
作業にあたっては、辞書として萱野茂さん(アイヌ民族初の国会議員)の「アイヌ語辞典」(三省堂)を主に活用しましたが、この辞書には(というよりアイヌ語には)、「憲法」あるいは「原子力」といった言葉はありません。そこで、アイヌ語にもともとある言葉を活用して、これらの概念を表すにふさわしい言葉を考えてみました。

こうした作業を通じて、「アイヌ語は知恵の言葉である」という印象を強く受けました。
中世イスラーム世界において、アラビアやペルシアの学者たちは古代ギリシアの数学、論理学、物理学、医学、哲学などの古典を盛んに翻訳し、イスラーム文明の大輪の花を咲かせました。その成果は、古代の成果を忘れつつあった同時代のヨーロッパにも多大な影響を与え、キリスト教哲学すら、イスラーム教徒が訳した古代ギリシア哲学の影響を受けたほどです。イスラームの学者たちは、そうしたギリシア文明に感嘆して、「ギリシア語は知恵の言葉である」と述べました。
同様に、今回の翻訳作業を通じ、アイヌ語を介することで、アイヌ民族が培ってきた自然との共生の知恵、人々が平等に暮らす知恵を介することで、私たち緑の党の理念を更に明確に示すことができるのではないか、と感じました。

もちろん、私のアイヌ語能力は乏しく、この試みがどれだけ成功しているかは心もとないものがあり、皆さんのご批判を仰ぎたいところです。
とりわけ文法的な誤りが多々あると思いますし、また近代法その他の概念をアイヌ語で表現する試みはこれまでなかったことから、適切なアイヌ語の言葉を選択できているかは心もとないものがありますので、この点からも皆さんのご批判をお願いしたいところではありますが、もしお時間がありましたら是非一度お目を通して頂ければ幸いです。

2013年7月3日

緑の党運営委員・弁護士 笠原一浩