「5年の猶予」は新たな安全神話~再稼働への「規制緩和」は許されない

 変わらぬ癒着・隠ぺい体質

 

 昨年末に発覚した原子力規制庁の名雪哲夫元審議官による日本原子力発電への文書漏えい事件は、「原子力ムラ」の変わらぬ癒着体質を露呈させました。しかも、個人に責任をかぶせ、古巣の文科省への出向という大甘「処分」による幕引きが図られました。名雪氏は発足以来の4ヶ月で実に30回以上、電力会社幹部による「儀礼的あいさつ」に一人で対応したとされます。さらに、12月23日に発覚したにも関わらず、原子力規制委員会は2月1日まで公表を遅らせ、「原子力防災指針」や「新安全基準」の骨子案策定への影響を回避したのです。その隠ぺい体質はかつての原子力安全・保安院を彷彿とさせます。

 パブコメ無視の規制委員会

 こうした中、2月には原発再稼働の行方を大きく左右する2つの重要なパブリックコメント(意見募集)が行われました。自治体の原子力防災計画の前提となる「原子力災害対策指針」改定案については、わずか2週間(行政手続法では30日以上と定められている)の募集期間にも関わらず、3155件もの意見が集まりました。「募集期間が短すぎる」「即時避難区域(半径5キロ圏内)や事前に避難対策を講じる区域(5~30キロ圏内)が狭すぎる」「避難の判断基準の放射線量が高すぎる」 「避難をもっと早期に開始すべき」「住民説明会を開催してほしい」などの意見が多く寄せられました。

 しかし、規制委は、字句修正のみ行い、内容に関わる意見をいっさい無視して指針の決定を強行しました。本来なら、検討チームで十分な審議を行うべきでした(注1)。こうした規制委の姿勢に、多くの傍聴者から怒りの声が飛びました(注2)。
 一方、「新安全基準」(シビアアクシデント対策と地震・津波設計基準)の骨子案については、22日間の募集期間に、約4300件にのぼる意見が寄せられました。
 基準骨子案は、規制委の2つの検討チームで議論されてきましたが、ともに原子力事業者から献金を受けた「利益相反」メンバーが基準の骨抜きを図ってきました。地震・津波設計基準では、元電力中央研究所の谷和夫氏(防災科学技術研究所)が、「工学的な計算により予測されるずれが小さければ、建屋以外の重要施設は活断層の真上でも大丈夫」との驚くべき理論を展開しましたが、和田章氏(東工大)や鈴木康弘氏(名古屋大)から強い批判を受け、さすがに退けられました。少なくとも重要施設については、活断層の真上には設置できないとの方向が固まったのです(注3)。

 一方で、島崎邦彦委員長代理が主張していた「約40万年前以降の活動が否定できないものを活断層とする」との見解は、「12~13万年前以降の活動性が判断できない場合、40万年前以降にさかのぼり検討する」と明らかに後退しました。

 「利益相反」メンバーによる骨抜き

 シビアアクシデント(過酷事故)対策では、検討チームの外部メンバー6人中4人を利益相反者が占め、山口彰氏(大阪大)、山本章夫氏(名古屋大)らを中心に、新設する「特定安全施設」の耐震性を値切るなどの骨抜きが行われました。とりわけ、山口彰氏は、高速増殖炉「もんじゅ」を推進する文科省の原子力科学技術委員会もんじゅ研究計画作業部会の委員も兼任しています。推進の立場の委員が同時に規制の立場の委員を兼ねることは、「推進からの独立」を掲げる規制委にとって本来相いれないものです。
 こうした動きに対して、規制委が排除している原子力に批判的な専門家などから強い批判の声が上がっています。ストレステスト意見聴取会委員を務めた井野博満氏、後藤政志氏らです。彼らは、「東電による国会事故調への虚偽説明事件も発覚する中、福島第一原発事故の原因究明が先決」「旧安全審査指針類と新安全基準との相互関係が不明確」「小手先の追加対策でなく、設計の根幹から見直すべき」「可能な対策すべてを実施すべきであり、猶予期間を置くことは許されない」「ベントによる放射能放出を前提とした対策は無責任」などと骨子案を厳しく批判しています(注4)。

 「計画だけでOK」は許されない

 3月19日に開かれた規制委の定例会合で、田中俊一委員長の私案として「原発の新規制施行に向けた基本方針」が示されました。文書には「新規制導入の際には、基準への適合を求めるまでに一定の施行期間を置くのを基本とする」と書かれ、「新規制導入に当たっての取扱い」の項では、「①今年7月の新規制の施行段階で、設計基準事故対策及びシビアアクシデント対策(大規模自然災害やテロに起因するものを含む)として必要な機能をすべて備えていることを求める、②シビアアクシデント対策やテロ対策の信頼性向上のためのバックアップ対策については、施行後5年までに実現を求める」との区分けがなされています。

 更田豊志委員は、①の中に沸騰水型軽水炉(BWR)のフィルター付ベントを入れる一方で、加圧水型軽水炉(PWR)のフィルター付ベントは②に含めています。PWRは西日本に多いため、伊方、川内、玄海の各原発が今秋以降の再稼働有力候補として報じられ、「年内に再稼働出来るのは伊方の1基と川内の2基くらいではないか」との経産省幹部の発言も伝えられています(『週刊ダイアモンド』3月23日号)。

 しかし、これでは「計画だけでOK」の大飯原発再稼働の再現です。すべての安全対策を義務付けることが大前提のはずです。規制委は稼働中の大飯原発3、4号機の扱いについても、従来の「例外扱いしない」との主張を覆して、新安全基準の適用を定期検査入りする9月以降と表明しました。相次ぐ「規制緩和」の動きを見過ごすことは出来ません。

 再稼働を止める正念場は、新安全基準が施行される7月以降ではありません。まさしく今こそがその時です。「5年の猶予を認めるな」「活断層の定義は40万年前以降を基準にせよ」の声を大きく上げることが重要です。新基準のハードルを高めることによって、再稼働を断念させる道が開けます。それが出来るのは今を置いて他にありません。(3月24日)

 

(注1)耐震設計審査指針の改訂(06年9月)の際には、石橋克彦委員(当時)の要求を受けて、5回の長時間会合が開催された。「電力会社の『虜』だった原発耐震指針改訂の委員たち」(石橋克彦、『科学』2012年8月号所収)を参照。

 

(注2)原発事故時の防災指針にパブコメ反映されず(動画:OurPlanet-TV、2月27日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1540

(注3)「巻頭エッセイ:原発事故を二度と繰り返さないために」(鈴木康弘、『科学』3月号所収)

 

(注4)井野博満「福島の教訓を生かしていない再稼働ありきは危険だ」(『週刊エコノミスト』3月19日号)など。