【論説】東電株主代表訴訟・控訴審の株主敗訴-不当判決に抗議します

【論説】東電株主代表訴訟・控訴審の株主敗訴-不当判決に抗議します

 2025年7月8日
緑の党グリーンズジャパン運営委員会

  不注意により東京電力福島原発事故を起こし、東京電力に多大な損害を与えたとして株主らが旧経営陣5被告(勝俣恒久元会長・武藤栄元副社長・武黒一郎元副社長ら)を被告として提訴した株主代表訴訟で、去る6月6日、東京高等裁判所は、旧経営陣の責任を認めて合計13兆円強を東京電力に賠償するよう命じた一審の東京地裁判決を覆して、株主らの請求を棄却しました。

 この裁判では、津波の予見が可能だったかどうかが最大の争点となりました。

その前提として焦点となるのが、地震や津波などの専門家でつくる国の地震調査研究推進本部が東日本大震災の9年前の2002年に公表した「長期評価」の信頼性です。この「長期評価」では、福島県沖を含む太平洋側の広い範囲で、マグニチュード8クラスの津波を伴う大地震が、30年以内に20%程度の確率で発生するという新たな見解が示されました。東京電力の子会社は、事故の前、「長期評価」の見解に基づき、福島第一原発に到達する津波の高さが最大で15.7メートルになるという試算していました。それにも関わらず、当時の経営陣は、専門家の間でも見解が分かれていたことなどを理由にして、学会に研究を委ねることとし、対策はとられませんでした。

一審の東京地裁が科学的知見を重視し、旧経営陣の責任を認めたのは当然のことです。ところが、東京高裁は「原発はひとたび事故が起きれば甚大な被害を広くもたらし、国の崩壊にもつながりかねない」から、原発を運転する会社には「最新の知見に基づき事故を防止する社会的、公益的責務」が求められ、事故防止を指示できた旧経営陣は「大きな社会的責任を負うべきだ」と指摘しながら、法的責任の判断では、長期評価の重要性を軽視・無視することによって(※1)、旧経営陣の責任を不問に付したのです。

 この高裁判決は「事故を経験した現時点においては、取締役に一層重い責任を課す方向で検討されるべきもの」とも述べていますが、これは結果的に「事故前」の不十分な安全対策を免罪するものです。今回の判決のような論理では、今後も事故は繰り返され、そのたびに経営陣や幹部は免罪されることになりかねません。こうした司法判断は、無責任な原発推進・延命政策を後押しするものです。

一方、今回の判決によって、これまで民事訴訟で明確にされた国や東電の責任が消し去されるわけではありません。私たちはその点をあらためて確認する必要があります。

 私たちは、今回の高裁判決に強く抗議するとともに、原告や弁護団、全ての支援者・関係者のみなさんの奮闘と努力に心から敬意を表し、仲間と共にこの裁判を支援し、その責任を引き続き厳しく追及します。国や東電は、原発事故の早期収束と環境回復、避難者や被災者への支援に全力で責任を果たすべきです。

 また、死傷者が出るような原発事故の重大で深刻な影響を考えれば、被害者への十分な救済と賠償を可能とする原賠法の改正や、法人やその代表者の刑事責任を問えるような法制度の充実が必要であり(※2)、この点も重ねて強く訴えていきます。

※註

1)島崎邦彦氏らがとりまとめた福島県沖での地震・津波発生を予測した「長期評価」を取り入れるよう自治体や他の電力会社から求められていた事実を認定しなかったことや、科学の専門家とは言い難い裁判所がこの「長期評価」の信頼性が十分ではなかったなどと軽々しく論じていることも重大な問題。

2)緑の党グリーンズジャパン運営委員会論説「原子力損害の賠償に関する法律」改正にあたって-福島の被害に寄り添い、二度と繰り返さない賠償法制を-(2016年12月3日) https://greens.gr.jp/seimei/24484/

全文(PDF)→ https://greens.gr.jp/uploads/2025/07/r_todenkabunushi.pdf