【論説】地球規模の気候変動を迎えた現代社会に石木ダム建設は不要
【論説】地球規模の気候変動を迎えた現代社会に石木ダム建設は不要
2020年7月30日
緑の党グリーンズジャパン運営委員会
長崎県川棚町川棚川の支流石木川の川原地区にダムが造られる計画が進められています。
水没予定地では県道付け替え工事が進められ、事業に反対する市民のみなさんが連日座り込みの抗議活動を続けています。先月8日には市民団体に加え、国会・自治体議員らでつくる「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」が県知事と佐世保市長に事業見直しなどを求める文書を提出しました。石木ダムの計画が持ち上がったのは今からおよそ60年も前の1962年でした。当時日本各地で工業団地の造成が進められ、長崎県でも佐世保市に工場団地が計画され、その給水源として計画されたものです。その後72年に調査が始まり、75年に事業が採択されていますが、その後の経済状況や産業構造は大きく変わり、佐世保市の工場団地の計画は破綻しました。しかし、ダム建設に反対する川原地区住民の声を無視して長崎県は計画をそのまま推し進めてきました。
長崎県は佐世保市の給水需要が今後とも伸び続けるという非現実的な見通しと、新たに川棚川下流域の洪水対策を理由に挙げ、石木ダム建設を進めています。しかし、超高齢社会を迎えた人口減少や節水の取り組みの普及などにより、佐世保市の給水量は今後さらに減少していくことは確実です。実際に、佐世保市の水供給実績は減少し続けており、給水量で言えば石木ダムの必要性はありません。また、川棚川の支流である石木川は本流の流域面積の11%でしかなく、必要性の理由として挙げられている洪水対策にもほとんど役立ちません。また、川棚川下流域の洪水対策には河川堤防の整備と川棚川河口の拡張・浚渫で対応できます。現在、川棚川河口では拡幅工事が進み、ダム建設の必要はさらに低下しています。
諫早湾干拓事業では、目的を失ったにもかかわらず一度決めた計画は変更しないという開発事業に絡む利権によって、豊かな自然が破壊され、そこに住む住民の人間関係は引き裂かれ、漁業者の生活が奪われてきました。石木ダム建設予定地の川棚町川原地区でも、目的や根拠を失った計画が強権的に進められています。長崎県土地収用委員会は昨年5月に強制代執行を認め、収容期日を迎えた9月、川原地区住民の土地や建物の権利は奪われてしまいました。住民と県との協議で土地収用実施は3年延期されたものの、ダム本体建設に向けた道路建設などは進められています。子どもたちを含めて50名以上の住民は「ふるさとを離れたくない」「離れる理由はない」との思いで生活を続け、理不尽な長崎県と闘い続けています。また、川原地区の豊かな自然と住み続けてきた生活を守るために、ダム建設をやめるよう県と交渉し、事業差し止め訴訟を起こしています。
気候危機が進行し、「50年に一度」規模の豪雨が毎年のように頻発する状況の中で、ダムに頼った治水対策には限界があります。先月4日の甚大な球磨川水害においても、ダムは水害軽減にはほとんど役立たず、河川管理や河川域の水害防備林の造成が必要であり、建物を耐水化するなどした上で、水害を前提として被害の軽減や適切な避難で対応するしかないとの指摘があります(※1)。
私たち緑の党は、他の政党やグループとともに川原地区住民の粘り強い運動を支援し、長崎県に地方自治の本旨である「住民の福祉の増進を図る」行政に立ち戻り、直ちに計画を中止するよう求めるとともに、地球規模の気候危機が進行する現代において、ダムに頼らない治水・豪雨対策の必要性をあらためて強く訴えます。
※註 1) 7月22日「流域治水の最前線シンポジウム ー 温暖化時代の水害政策を求めて」(参議院議員会館)での大熊孝・新潟大学名誉教授資料「7・4球磨川水害 -川辺川ダムがあったとして水害を防げたか?-」
https://greens.gr.jp/uploads/2020/07/20200704kumagawa-ookumamemo.pdf
PDFファイルは⇒https://greens.gr.jp/uploads/2020/07/ronsetu20200730.pdf