【論説】 「1票の格差」議論からの脱却を-「1票の格差」是正が、逆に民意と国会意思との…
【論説】 「1票の格差」議論からの脱却を
-「1票の格差」是正が、逆に民意と国会意思との歪みの拡大につながっている-
2016年 12月 28日
緑の党グリーンズジャパン政策部 中山均
今年7月の参院選をめぐる「1票の格差」を理由に選挙の無効を訴えた裁判の各地裁の判決が先月(11月)までに出揃い、その結果は「違憲状態」「合憲」が混在するものとなりました。
裁判に訴えた弁護士グループや「1人1票運動」は、「1票の格差」が「民意と国会の意思との乖離」の原因であり、そのような格差は「法の下の平等」(憲法14条)に反し、その是正が必要だと主張しています。
しかし、そもそもそのような「乖離」の最大の要因は、「1議席あたりの有権者数の格差」よりも、むしろ、選挙区ごとに多様な民意をわずかな議席にしか反映できない衆院小選挙区制度や参院選挙区制度にこそあります。これらの選挙区制度は、大量の死票を生み出し、3割台の得票率で当選することも少なくなく、多様な民意が無視されます。先の第47回衆院選(2014)では、得票率48%の自民党が国会で76%の議席を占有する結果となり、これは小選挙区制を維持する限り避けられない重大な歪みです。また、都道府県単位(現在、合区も導入)の選挙区ごとに1人かせいぜい数人しか選べない参院選挙区制度では、「1票の価値」が重いとされた地方選挙区(ほとんどが1人区)で多くの死票が生まれるという皮肉な結果も生じています。「1票の価値」が重くとも、民意を反映した選挙制度でない限り、多くの有権者の民意は切り捨てられるのです。こうした選挙制度は、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」(憲法43条)に反し、この歪みを放置したまま1議席あたりの有権者数の均衡を求めても、本質的な解決にはなりません。
ところが、1票の格差の是正や選挙の無効を訴えた裁判では、主たる争点が有権者数と議席数の比率となっているため、裁判所も衆院や参院の選挙区制度の是非について判断しないまま判決を下しています。その結果、多くの政党やマスコミも「1票の格差」の議論に終始し、衆参両院の選挙区制度の重大な根本問題は結果的に覆い隠されたまま、放置されています。
緑の党は、多様な意思を反映できる比例選挙の拡大を主張しています。比例選挙制度は少数勢力の参入が容易で、クオータ制とも親和性があり、女性の議席の拡大にもつながり、海外においても緑の党の議席の獲得や女性議席の拡大の大きな背景となっています。また、比例制度は、「1票の格差」を解消する最も簡潔で完璧な方法です(※註1)。
今年5月に成立した公職選挙法における衆院定数の「小選挙区6減(=選挙区域の併合)・比例区4減」や参院選挙区の「合区」は、「1票の格差」の技術的・算術的解消が、むしろ民意と国会の歪みの拡大につながるもので、問題の本質的解消とは逆行するものです。また、これらの制度改正について「格差の解消が不十分」とする一部の政党やマスコミの論評や主張も、本質を見誤った的外れのものだと言わなければなりません。
さらに、国会議員選挙への立候補に数百万円もかかる供託金制度も、民主主義を歪めています。諸外国と比べて極めて特異なこの制度は、富裕層や組織基盤を持った者以外の民主的権利を事実上剥奪しているに等しいものです。韓国では、2001年、憲法裁判所が2000万ウォン(日本円で約200万円)もの選挙供託金があまりにも高額で憲法違反だと判断しています。日本についても、ほぼ同じことが言えます。
「1票の格差」論や「区割りの見直し」を越えて、小選挙区制度の廃止、国や地方の選挙制度を比例制中心に抜本的に改正すること、供託金制度の大幅改革・廃止こそ、政治の歪みを是正する最優先課題であると考えます。
※註1:ただし、選挙制度の議論にあたっては、衆参両院の役割やそのあり方の観点も必要。
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