【世界のみどり】オーストリアに緑の大統領が誕生


2016年5月22日(日)オーストリアの連邦大統領選挙(第二回投票/決選投票)がおこなわれ、翌日の郵便投票の結果を受けてオーストリア緑の党共同代表を11年務めたアレクサンダー・ファン・デア・ベレン氏(72)が第9代オーストリア大統領となりました。4月末に行われた第一回目の投票では極右政党「自由党」が擁立したノルベルト・ホーファー氏(45)に14%ポイントも差をつけられていたにもかかわらず、わずか3万票差で見事に勝利した「緑の経済学教授」と呼ばれる彼はどのような人物なのでしょうか?

■ファン・デア・ベレンとは? Alexander_Van_der_Bellen
アレクサンダー・ファン・デア・ベレン氏(以下、ベレン氏)は、1944年1月18日ウィーンで、エストア人の母とオランダ系ロシア人の父とのあいだに生れました。インスブルク大学で経済学を学び、1970年に博士号を取得しています。その後、同大学の財政学研究所とベルリンの管理・行政国際研究所にアシスタントとして働きました。専門は財政、公共事業ファイナンス、税制、環境・交通政策などで、緑の党の中では異色のキャリアの持ち主です。1975年からインスブルク大学の客員教授、1977年からは連邦経営アカデミーで教え、1980年にはウィーン大学の経済学教授として教鞭をとっています。

ベレン氏は1970年半から80年代後半までオーストリア社民党に党員でしたが、彼の最大の関心事であるエコロジーと人権を追求する過程で、当時博士課程にありながらオーストリア緑の党のスポークスマンでもあったペーター・ピルツに緑の党への勧誘をうけました。

■政治的キャリア
1994年から2012年まではオーストリア国民議会の議員となったベレン氏は、1997年から2008年までの11年間、オーストリア緑の党の共同代表を務めました。これまで5%の得票ラインすれすれで今後の存在が危惧されていたオーストリア緑の党でしたが、彼が共同代表になってからは、1999年に7.4%、2002年に9.5%、そして2006年は11.05%と躍進しました。2012年から2015年まではウィーンの州議会の議員となっています。

2014年にオーストリア緑の党の広報チームが「www.vdb2016.at」(v=ファン d=デア b=ベレン)というドメインをインターネットに登録したことが明らかになり、以来、ベレン氏は第9代大統領候補として扱われていました。2016年1月8日にヴァン・デ・ベレン ビデオメッセージを通じて無所属として第9代大統領選挙に立候補することを公式に発表しました。

■2016年第9代オーストリア連邦大統領選挙
6年ごとに改選されるオーストリア共和国の連邦大統領選挙は、第1回目の投票で過半数を得る候補者がいない場合、上位の2名で決選投票をすることになっています。大統領の権限は厳しく制限されていますが、まぎれもなく国家の代表であり、どのような人物が大統領として選ばれるかは大変重要であす。特に、移民問題への不安などによって右翼政党が欧州各国で勢力を伸ばす中で、オーストリアでどのような結果になるかは大いに注目されました。

立候補者は6名で、ベレン氏はオーストリア緑の党からではなく、無所属として立候補しました。その他の候補者、自由党のノルベルト・ホーファー氏、社民党のルドルフ・フンズシュトルファー氏、国民党のアンドレアス・コール氏、そして無所属のイルムガード・グリス氏とリヒャルド・ルグナー氏です。

最終的には過半数獲得を目指さなければならない大統領選挙に対応するため、ベレン氏の支援母体であるオーストリア緑の党は、超党派団体として”Verein Gemeinsam für Van der Bellen 「一緒にヴァン・デ・ベレンのために」”を組織する一方で、スタッフを6名派遣し、いくつかの事務所の解放、そして120万ユーロあまりの財政的な支援も行いました。

第一回目の投票では、自由党のノルベルト・ホーファー氏が35%以上獲得して第1位、ベレン氏は21.34%で2位につけました。3位には同じく無所属で18.94%を獲得したイルムガード・グリス氏という結果でした。しかし、今回の選挙結果が象徴しているのは、連立政権与党の国民党と社民党の候補者が、それぞれわずか11%ほどしか票を集めることができず、合わせても極右政党に遠く及ばないという結果になったとのことです。決選投票にコマをすすめたのは、自由党のノルベルト・ホーファー氏と無所属のベレン氏でした。

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5月22日(日)に行われた第二回の投票において、まずはホーファー氏が51.93%の得票率で、48.07%のベレン氏を上回りました。70万票と伝えられる郵便投票などの集計がすすみ、翌日発表された結果ではベレン氏が50.35%、ホーファー氏が49.65%と僅差でベレン氏が逆転勝利をおさめました。その差はわずか3万票で、オーストリア連邦大統領選挙史上、最も拮抗した選挙となりました。

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今回の連邦大統領選挙では、難民・移民への対応が大きな争点であり、決選投票に残った2人の主張は対照的でした。オーストリア緑の党が支援するベレン氏は人権を守る立場から寛容な姿勢を強調する一方で、ホーファー氏は受け入れを制限すべきだとしました。近年、欧州では既存の政党が、新しく起こる問題に対して明確なスタンスをとることができず、新しい政治勢力の台頭が相次いでいます。ドイツの3つの州選挙と同様、市民の不安や怒りを代弁する政党が拡大する一方で、市民に新しい希望と勇気をもたせる政党も必要とされています。その選択肢に緑の党出身者が選ばれたことは私たちにも未来の希望を与えます。


レポート:緑の党共同代表 長谷川平和


ファン・デア・ベレン氏 情報
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