(保存用)政策③経済成長神話から卒業し、新たな仕事とスローライフを実現する21世紀型の循環型経済に向かう

 

③  経済成長神話から卒業し、新たな仕事とスローライフを実現する21世紀型の循環型経済に向かう

 

現状と課題

経済成長は豊かさではなく、格差と貧困をもたらした

 

私たちはこれまで、ひたすら成長(GDPの増大)を追い求める経済のなかで働き生活してきました。経済が成長すれば雇用と所得が増え、税収も増えて社会保障も充実するという神話に縛られてきました。しかし、経済成長は豊かさや幸せを人びとにもたらすことができず、むしろ幸福度は下がりました。そして格差と貧困を広げ、原発をはじめとするエネルギーを大量に消費し、環境を破壊しつづけてきました。
 日本経済はバブル崩壊後ゼロ成長の時代に入りましたが、2000年代には“市場に任せればうまくいく”という新自由主義に立って競争の促進による経済成長の回復という政策(「構造改革」路線)がとられました。とくに労働市場の規制緩和は、非正規雇用を労働者全体の35%(女性では55%)を占めるまでに増大させました。低賃金で使い捨ての非正規雇用を利用することで輸出が伸び、2002年~07年には景気が回復しました。その結果、多国籍に展開する巨大企業は巨額の利益を稼ぎだしましたが、その利益は社会に還流されませんでした。民間労働者の平均年収は1997年の467万円から2010年には412万円に低下し、ワーキングプアが急増し、非正規労働者の74%は年収200万円以下で働いています。また、東京圏と地方の格差が広がり、地域経済は衰退し「シャッター通り」化が進み「限界集落」が増えてきました。

TPP参加は農業や医療や社会のルールを壊す

輸出主導・海外市場依存の経済成長は、2008年のリーマンショックに直撃されて破綻しました。民主党政権は「国民の生活が第一」を謳い国内市場主導型の経済への転換を掲げましたが、その路線を貫けず、TPP参加に踏み切ろうとしています。それは、自動車や電機製品を輸出して代わりに食料やエネルギーを大量に輸入するという従来の経済のあり方の焼き直しです。「例外なき関税撤廃」は農業に壊滅的な打撃を与え、食料自給率を14%にまで低落させ、食料主権を失わせます。“TPP参加で農業改革を”唱えて規模拡大と輸出産業化をめざす政策は、「小さな農家」を潰し「いのちの源」である土の力を衰えさせるだけです。
 TPP参加は米国などの大企業の投資を自由にさせ、環境や安全性の面から規制を行なった政府を提訴することを可能にします(ISD条項)。食の安全性を守るルール(遺伝子組み換え作物の表示義務)が取り払われる。医療分野では「混合診療」が解禁され、国民皆保険制度が崩れます。自主共済の事業は息の根を止められ、郵貯や簡保の完全民営化への圧力も強まります。
 TPPは、人びとのいのち・健康や安全や生活を守るために確立されてきた安全性や公共性のルールを根こそぎ破壊し、米国流の競争原理に置き換えるものです。

金融の暴走への規制とローカルな循環型経済の構築

世界経済は、リーマンショックからユーロ危機への流れが示すように、金融(マネー)の膨脹と暴走に翻弄されていちじるしく不安定性と不確実性を増しています。貿易に必要な金額(外国為替取引高、1年で6兆ドル)の250倍ものマネーが株・証券や外国為替の投機的取引に投入されています。海外市場に進出して経済成長をめざすという路線は、経済全体をたえず不安定な変動と大きなリスクにさらすことになります。マネーの暴走に歯止めをかける国際的な金融規制の実行は、最も重要な焦眉の課題となっています。
 労働力人口が急激に減少する日本では、もはや経済成長は望めません。そのなかで働く場と生活を保障する経済の仕組みを創出する必要があります。少子高齢化の進展、脱原発の流れ、食の安全性への関心の高まりは、ケア(医療・介護)、再生可能エネルギー、食(農業)の分野で大きな需要と雇用の機会を生みだしています。ケアに従事する就業者は増え続けてすでに650万人となり、製造業やサービス業の1000万人ずつに迫りつつあります。環境・再生可能エネルギーの分野でも、新しく150万人の雇用が地域に創出できると見込まれています。高齢化が進み後継者不足に悩まされてきた農業の分野でも、就業を希望し研修に興味をもつ人は少しずつ増えています。
 同時に、省資源・省エネルギーの技術をはじめ優れた技術を継承・活用し、高い技術と知識をもつ人材を養成し、高付加価値の製品を作り、海外にも売ることが必要です。環境保全型のエネルギー生産の技術を世界に普及することも求められています。
 利益の最大化や経済成長を自己目的化する経済のあり方を見直し、人びとの生命・生活・雇用の安定をめざす営みに立ち帰るべきです。したがって、グローバルな市場競争のなかで自由化を進め、人件費削減や労働者の使い捨てによって国際競争力の向上に血道を上げる道から大転換しなければなりません。私たちは、人間らしい労働(ディーセント・ワーク)とスローライフの実現によって豊かさを享受したいのです。ケア、エネルギー、農を基盤にして地域内でモノと資金が循環するエコロジカルでローカルな経済の構築がその出発点となります。

 

個別政策

幸福な経済を追求し、スロー・スモール・シンプルで豊かに生きる

1 海外市場の拡大に依存する経済成長戦略に反対し、20世紀型の重厚長大産業ではなく、21世紀型の環境・再生可能エネルギーと医療・介護・教育と食(農業)の分野で経済を活性化し、新しい起業と雇用を創出する。
 *海外市場の拡大に依存する経済成長戦略から脱却し、医療・介護・教育と環境・再生可能エネルギーと食(農業)の分野に重点的に資金を投入し、新しい仕事を創出する。
 *「日本は資源小国」ではない! 豊かな自然の資源を活用して“地産・地消”(地域自給)型の再生可能エネルギーを発展させ、脱原発・脱石油を進める。
 *医療・介護・子育ての従事者の賃金を大幅に引き上げ、雇用を増やし人材を確保する。
 *人件費の切り下げと労働者の使い捨てをやめ、高い技能と知識をそなえた人材を育てて高付加価値の製品づくりを進め、海外にも輸出する。

環境負荷の少ない産業活動を奨励・普及する

2 農林水産業および工業活動における省資源化・省エネルギー化・有害物排出の最小化をいっそう推進する、企業の自発的な活力を最大限に引き出すとともに、必要最小限の直接的規制と経済的手法の導入を行なう。

3 日本の誇る省資源・省エネルギー型の製造技術やエネルギーの生産・消費技術を世界に普及させるために政策的支援を行なう。

仕事の分かち合いでスローライフ

4 経済活動の成果(富)が公平に配分されるように、公正な税制で所得再分配を行ない、格差の拡大を防ぐ。

5 非正規労働者に安心と安定を保障するために、最低賃金法を改正するとともに、同一価値労働同一賃金を実現する。その上で、ワークシェアリングによって失業をなくす。
 *同じ仕事をしていれば、正規・非正規、男・女にかかわりなく同じ時給と労働条件(社会保険加入、有給休暇や産休・育児休業などの取得、技能研修)を保障する。
 *派遣労働については、派遣会社による中間搾取を制限する。人間を使い捨てる登録型派遣と製造業派遣を禁止し、派遣労働はポジティブリストの専門的な仕事に限定する。
 *最低保障賃金を時給1000円以上に引き上げ、生活できるだけの賃金を保障する。
 *官製ワーキングプアをなくすために、公契約条例を制定し、公共部門におけるすべての労働に「公正労働基準」(リビングウエッジなど)を適用する。
 ※正規労働者の年功賃金についても、同一価値労働同一賃金の原則にもとづく仕事に応じた賃金体系への移行が必要であるが、すでに導入されている成果主義・業績主義的な能力給には、公正な評価ができないという問題がある。仕事(職種・職務)を評価する社会的な仕組みの確立が課題であろう。

6 労働時間を年1300時間に短縮する。過労死や「こころの病」を防ぐために、残業を抜本的に規制する。
 *残業をなくし、週3日か1日5時間だけ働くような働き方を推進する。過労死防止基本法を制定し、残業の上限を月15時間に短縮し、割増賃金率を50%に引き上げる。
 *多様な勤務制度を導入する。短時間正社員制度を育児期間中に限定せず、いつでも選択できる制度に変えるための法制化を行なう。

7 会社で働くことだけでなく、自営の仕事を起業する、協同組合やNPOを作って働くといった多様な働き方を支援する仕組みを作る。そのために、そのために「協同労働の協同組合法」(仮称)や「社会的事業所促進法」(仮称)などの法制化を図る。
 *不当な業務命令や配転命令を拒否できる労働者の権利を確立する。
 *労働者が社会的に有害な労働や無意味と感じる労働を拒否し、安心して転職することが可能な仕組み(ベーシック・インカム)を作る。
 *多様なライフスタイルを選択できる仕組みに変える。就職し働くこと、自分で起業すること、ボランティアをすること、大学で学びなおすこと、好きなことを楽しむことを自由に往復できる条件を整える。
 ※会社の監査役に労働者(従業員)代表を入れるなど、経営参加による労働者の発言権・拒否権の確立の仕組みについて検討したい。
 *「協同労働の協同組合法」(仮称)や「社会的事業所促進法」(仮称)などの法制化を推進する。

地域経済を再生する

8 エネルギーや農産物の地産地消など、地域内でモノ・サービス・資金が循環する仕組みを作る。
 *分散型の再生可能エネルギーの自給、食の自給、ケアの確保に重点的な投資を行ない、仕事を創り、循環型経済を築く。
 *地方小都市と周りの農山漁村が、生産(小さな農業・漁業・林業・山仕事)と加工(地場産品の加工)と販売(商店街とその重要な担い手の八百屋・魚屋・米屋・豆腐屋など)を有機的につなぐ経済圏を再生させる。
 *地方での医療・介護・子育ての公共サービスを拡充する。
 *住民の討議とニーズにもとづく小規模で環境保全に役立つ公共事業の実施を優先する。
  *地域再投資法を制定し、地域から集めた預金の一定割合を地域の中小企業や農家に融資することを金融機関に義務づける。

9 食・再生可能エネルギー・ケア・子育てなどの社会的事業に融資するマイクロ・クレジット(NPOバンクなど)を支援する法的制度を整備する。
 10 被災地の漁業を、大手水産加工会社などの参入に依存するよりも、漁民の協同の推進によって再生することを支援する。

11 河川の下流域・都市部の住民・自治体が上流域・中山間地の住民・自治体と交流し、支援する流域圏の自治的なガバナンスを作る。

12 住民参加の都市計画策定を進め、大都市の大型開発に対する規制を強め、環境調和型の都市を作る。
 *駅前商店街の再生プロジェクト(空き店舗の共同利用など)を支援する。郊外型の量販店や大型スーパーの出店に地元の小売業者と住民の同意を義務づける。
 *住民参加の都市計画策定を進め、大都市の大型開発に対する規制を強め、環境調和型の都市を作る。
  *ITを活用して地方や農山村で快適に仕事や生活ができる環境を整え、仕事をしたり事業を営む人を増やし、大都市を縮小する。
  *地方や農山村での在住・一時滞在や移住を促進し、大都市を縮小する。
 ※鉄道・路線バス・路面電車など公共交通の再生・強化は、環境の保全、「交通弱者」の減少の観点から、ひじょうに重要な政策であり、具体的な政策を研究・提案したい。

いのちと環境を守る農林水産業を再生し、市民が望めば誰でも農業に関われる暮らし※を創り出す

 ※この暮らしを「市民皆農」的生活と呼ぶことが適切か否かをめぐっては、議論を継続したい。「市民皆農」的生活とは、誰でも望めば部分的自給農を織り込んだ生活に向かうことを可能にすることで、いのちを守り、生き方の選択が広がることを意味する。また、農家と消費者の直接連携で、援農などの形で互いが都市と農村を往還することも含まれる。

13 農水省の規模拡大路線に反対し、「小さな農家」、「小さな生産組合」、CSA(地域サポート農業)など多様な主体による農業を維持・発展させる。  *人びとの暮らしの場であり、生産の場である「村」を、多様な人びとが自由に行き買い、交流し、共同しあえる拠点として再生する。

14 農林水産業は自然のサイクルに制約されるために市場原理にはなじまないことを明確にし、第一次産業従事者が夢をもって生活できるように、最低価格保証制度と中山間地の農家への環境直接支払い制度を確立する。
  *中山間地の農家が洪水防止や水源涵養などの多面的機能を担っていることへの対価として、直接支払いによる所得補償を行なう。

15 耕作する者が農地を所有・利用するという原則の下に、耕作したい人が誰でも使えるように、田畑森林の所有・利用の制度を改革し、若者をはじめとする新規就農を促進する。営利目的のみの株式会社による農地所有は規制する。
  *農業の新しい担い手を育てるために意欲ある人びと、とくに若者を農村に迎え入れ支援する仕組みを作る。地方自治体や集落による農地や農業機械の提供、農家による技術指導、新規就農者への生活費の保障などを行なう。
  *土地所有のあり方(公有化、トラストなど)や土地税制の具体的な形態については、さらに検討する。

16 環境保全型農業、有機農業、有機畜産で安全な農産物を作る農家への財政支援に力を入れ、産地直送・産消提携など生産者と消費者の信頼関係を強める。

17 農林水産業の“地産・地消”化を促進して循環型経済を活発にする。同時に“半農半X”型の生活スタイルを促進し、都市住民の家庭菜園・市民農園・近郊田畑との往還農などの部分的自給を進め、第一次産業従事者と市街地住民の直接交流を活発にする。
  *“地産・地消”型の農業を発展させ(農産物直売所、地域マーケット)、地域社会とコミュニティの再生と結びつける。“半農半X”型の農業従事者を増やすために、IT・ケアなどⅩとなる多様な職種を地域のなかに創り出す。
  *農家や農事組合の手で生産・加工・流通を一体的に行なう「6次産業化」を進める。

18 地域の食料自給率をできるかぎり引き上げ、世界一大きいフードマイレージを3分の1に減らし、遺伝子組み換え食品の生産・流通・輸入を禁止する。
  *アグリビジネスによる種子など知的所有権の独占を認めない。

グローバル経済の暴走への規制

19 通貨取引税・金融取引税・国際連帯税の導入などによって、マネーと金融経済の暴走を国際協力で規制する。
  *銀行など金融機関がマネーゲームに手を出すことを認めず、産業活動を仲立ちする金融の本来の機能に立ち帰えらせる。
  *通貨取引税や金融取引税や国際連帯税を導入し、マネーの投機的な取り引きを国際的に規制する。
  *ハイリスク・ハイリターンの金融派生商品(デリバティブ)を禁止する。
  *タックス・ヘイブンを閉鎖させる。
  *法人税の国際的な引き下げ競争を規制する。
  *米国によるドルのたれ流し(経常収支の慢性的赤字)をやめさせ、無制限な金融緩和政策を見直す。

20 TPPは強者によるやりたい放題の「自由貿易」の押しつけであり、農業や医療に致命的な打撃を与える恐れがあるため、参加交渉を打ち切る。東アジア・太平洋諸国との公正な貿易と経済協力の関係を構築する。
  *TPP参加交渉を打ち切り、公正・対等・互恵の原則に立って中国をはじめ東アジア諸国との経済協力関係を深化させ、将来的には地域的な協力機構の形成をめざす。
  *貿易の推進に当たっては、農業分野は関税引き下げ(貿易自由化)の例外扱いとし、食料主権を認め合う。共通農業基金を設立し、関税引き下げに伴う輸入増大で農産物価格が低下した分を補填する。
  *貿易や海外投資の推進に際して、それぞれの国・地域の労働者と生産者の生存権の保障、環境の保全、安全性の確保のために厳格な国際共通基準を作り、遵守させる。
  *東アジア域内の南北格差を是正していくために共通・連帯基金を設立し、日本が最も大きい負担を担う。共通・連帯基金は、地球温暖化防止など環境保全、貧困対策や雇用創出、為替変動や通貨危機に対応する金融支援に役立てる。