(保存用)政策④公正な負担によって、すべての人の生存権を保障する

 

④  公正な負担によって、すべての人の生存権を保障する

 

現状と課題

貧困の増大と格差の拡大

 

いま貧困と格差が広がり、多くの人びとの生存権が脅かされています。生活保護受給者は200万人を突破しました。相対的貧困率(税引き後の所得が年112万円以下の人の割合、2009年)は16%と、アメリカに次いで先進国のなかで最悪です。とくに一人暮らしの女性(20~64歳)の32%、シングルマザーの51%が「貧困」状態にあります。食べ物が余って捨てられているというのに、餓死する人が1年に40人を超えます。なぜ、このようなことになっているでしょうか。
 戦後の日本では、成年男性が企業で正社員として働き妻と子どもを養うだけの所得を得るという仕組みが成り立ってきました。この仕組みは、性別役割分業を前提にした「男性稼ぎ主」モデルと呼ばれました。人びとの生活は、企業に強く依存するという形で保障されてきました。
 しかし、バブル崩壊後の不況とグローバルな市場競争のなかで、終身雇用・年功序列の仕組みが崩れ、企業は非正規雇用を急増させてきました。その結果、年収200万円に満たない労働者は1000万人を超え、全体の23%(女性の場合は43%、2010年)にもなっています。失業率は4%台に高止まりし、働いていても生活できない人(ワーキングプア)が急増しています。そのため、貧困に陥る若者が増えています。さらに、3.11によって避難を余儀なくされた人は34万人を超え、仕事を失って所得を得られない人は10数万人います。

社会保障は穴だらけ

しかし、現在の社会保障の仕組みは、こうした変化に対応して生存権を保障する役割を果たしていません。所得保障の面では、仕事を失った時の失業手当は給付期間がひじょうに短い上に、最近まで大多数の非正社員が対象から外されてきました。老後の年金は国民年金の場合、満額でも6・6万円、5割の人が4.6万円以下、女性の33%が50万円以下と、とても生活できる水準ではありません。ワーキングプアが急増するなかで、国民年金保険料を支払えず(未納付率は2010年度には40%)将来は無年金になる人も増えています。生活保護も、「最低生活費」を下回る所得しかない705万世帯のうち、受給しているのは15.4%(2007年)にとどまり、捕捉率は先進国のなかで最低です。働いて所得を得ることのできる人が減ってくるなかで、雇用の機会を拡充するだけでなく、雇用とリンクしない所得保障の新しい仕組みの構築が求められています。
 公的な対人サービスの面では、医療の分野で救急医療や小児科・産科が医師や看護師の不足から相次いで縮小・廃止されてきました。また国民健康保険料を支払えない(未納率は12%、2009年度)ために病気になっても医師に診てもらえない人が増えています。誰もがいつでも医療サービスを受けられる国民皆保険制度は、足元から崩れてきています。介護の分野では、介護を必要とする高齢者が増えているにもかかわらず、サービスがまったく追いついていません。介護に従事する人材がひどく不足しているからです。その賃金は労働者の平均賃金よりもはるかに低く、離職する人が後を絶たず、資格を持ちながら介護の仕事に就いていない人も多くいます。障がい者支援の分野では「障害者支援総合法」案が提出されましたが、当事者の提言を無視し、「応益負担」原則に立つ「自立支援法」を事実上延命させるものです。「障害程度区分」を廃止せず、本人の要望を尊重する仕組みとなっていません。これでは、障害者が地域で自分らしく生き続けられることは保障されません。
 また、子育ての分野では、女性だけが育児を担う状況が改善されておらず、公的な育児支援サービスも不十分で、待機児童が解消されていません。さらに、家計には教育費の負担が重くのしかかり、高等教育の自己負担率は68%ときわだって高いです。住まいは自分で手に入れるべきという発想で「持ち家」政策が採られてきたために、公営住宅の提供や低所得者への家賃補助などが行われていません。
 生存権保障のためには現金給付だけでは不十分であり、医療・介護・障がい者支援・子育て支援・教育・住まいの分野での公的なサービス(現物サービス)の拡充が緊要の課題となっていません。また、地域における共助(助け合い・支えあい)と公的なサービスの連携がますます必要になっています。

社会保障を支える財政の危機

社会保障給付費は年々増え続けて2011年度には100兆円を超えましたが、高齢化や貧困の増大に対応して今後さらに増大していくことは避けられず、2025年には151兆円になると見込まれます。しかも、社会保障給付費の対GDP比は17.5%(2006年度)と、国際的にはまだいちじるしく低い水準にあります(スウェーデン29.5%、ドイツ28.8%)。いのちと生活を守るためには社会保障の拡充が必要であり、それに見合う財源を確保しなければなりません。
 しかし、日本の財政赤字は急激に膨らみ、国と地方を合わせた長期債務残高は940兆円、対GDP比196%(2012年度末見込み)にまで増えています。国の粗債務(国債・借入金・財投債・政府短期証券)1048兆円から金融資産を差し引いた純債務だけでも563兆円に上ります。これ以上借金(国債発行)に頼り、将来世代にツケを回すことは許されません。
 また、社会保障給付費の財源の約6割(60兆円、2011年度)は、社会保険料によって賄われています。日本では租税負担率が低いまま、社会保険料の負担率が高まり、勤労者世帯の収入の1割を超え、家計を圧迫しています。しかも、社会保険料は定額(一律)部分を含むために、低所得者の負担が重くなる逆進性があります。社会保険料の負担をこれ以上引き上げることはできません。

多様な生き方、多様性が尊重される社会をつくるためには世帯単位を個人単位に変えていくことが重要です。誰もが個として生きられる社会です。

性による差別や抑圧のない平等な社会をでは、性暴力やDVなど含め構造的な暴力のない、公正で、相互に助け合いながら、一人ひとりが可能性に挑み、誰もが生きる希望のもち、安心して「一人でも一人にならず暮らせる社会」を創造することです。

不公正な税制の抜本的改革

緊急に取り組むべき課題は、ムダな歳出を思い切って削減することです。八ツ場ダムなど不要な公共事業の中止、天下りの根絶、公務員給与の是正、5兆円の軍事費の大幅な削減、そして特別会計の透明化と抜本的な改革が必要です。
 しかし、歳出のムダをなくすことだけでは、また特別会計の余剰金を一般財源に組み入れる措置だけでは、増え続ける社会保障の財源を確保することはできません。3%以上の経済成長をすれば税収が増えて増税は不必要になるという見通しも、現実性がありません。増税は避けられません(注1)。
 ここ20年、所得税と法人税の税収が半分に落ち込み、財政赤字を拡大してきました。最大の問題は不公正な税制(「持てる者」が税を適正に負担していない)が作られ、それによって十分な税収が確保できていないことです。富裕層への課税は、所得税の累進性が緩和されたり、金融所得への課税が10%に引き下げられ、相続税が軽いことによって弱められてきました。またグローバル企業への課税も、法人税課税のベースの狭さ、企業が株式の相互持ち合いから受け取る配当への無課税など穴だらけです。
 野田政権は、富裕層への課税強化を後回しにして、また社会保障の拡充策を定めないまま、自民党・公明党と組んで消費増税だけに突っ走りました。消費税は、経済の動向にかかわりなく安定した税収が得られるが、低所得者により重い負担を押し付ける逆進性という重大な欠陥をもっています。また、中小零細企業が税率引き上げ分を価格に上乗せするのが困難で、コスト増になるという問題があります。逆進性を緩和する十全な措置がないまま消費増税を強行することは、社会的な弱者に負担を押し付け、格差を拡大するだけです。現在の消費税率引き上げを認めることは、けっしてできません。
※注1:増税が避けられないかどうかについては、断言できないという慎重意見があり、さらに議論を続けたい。

 

個別政策

生存権を保障する最低所得保障

1 将来的に、ベーシック・インカムを導入する(注2)。
 *働いているかいないか、働く意欲があるかないか、所得や資産があるか否かにかかわりなく、すべての個人に、最低限の生活が営める水準の基礎所得(ベーシック・インカム)を一律に給付する。
 *一連の所得控除(給与所得控除、配偶者控除、扶養控除、特定扶養控除、基礎控除)をなくし、失業手当、基礎年金、生活保護給付をすべて最低所得保障としてのベーシック・インカムに置き換える。
 ※注2:ベーシック・インカムの水準を示す金額を提示するべきか否か、また金額を提示する場合に1人当たり月10万円にするか、より低い金額にするかについては、違った意見が出されており、今後議論を続けていきたい。

2 当面は、年金制度を抜本的に改革し、同時に給付付き税額控除の導入と生活保護の改善・捕捉率の向上で貧困をなくす。
 *所得がないか年収300万円以下の低所得者に対して給付付き税額控除を導入する。
 *国民年金・厚生年金・共済年金を一元化し、最低所得保障年金に支えられた所得比例年金の制度に移る。
 *巨額の年金積立金を取り崩して年金保険料(率)の引き上げを行わず、保険料の定額部分を引き下げる。
 *現役世代と高齢世代の間の公平性を実現するために、高額の年金受給者への給付に月30万円の上限を設ける。
 *生活保護の「最低生活費」(東京都区部では83700円)を下回る所得しかない人には、無条件に生活保護を給付する。同時に、医療扶助が生活保護の給付総額の半分を占める、受診する医療機関の指定による過剰受診、就労へのインセンティブの欠如などの問題点を改善する。

誰もがいつでもどこでも安心して自分らしく生き続けられる支えあいの仕組みを、共助と公共サービスの連携によって構築する

3 人間は病気をするという認識の上に立ち、投薬や検査など、病気を治すことのみを重視する現在の診療報酬体系などの医療制度を改革し、自然治癒力を基礎にする。カウンセリングなどの相談体制を改革するなども含め、病気になった人が自分で納得して選択できる制度にする。

4 医療保険制度を一元化し、「混合診療」の解禁に反対し、国民皆保険制度を維持する。 保険制度を一元化する。 *現役世代の健康保険料を引き下げ、税金の投入額を増やす。 *ホリスティック医療を推進する。

5 介護報酬を大幅に引き上げ、介護従事者の賃金と労働条件を抜本的に改善して人材を確保し、サービスの供給を増やす。病気になっても介護が必要になっても、住み慣れた地域で自分らしく暮らす生き続けられることを可能にする地域医療・介護ネットワークを充実させる。
 *利用者の自己負担分をなくし、低所得の高齢者が安心して介護サービスを利用できるようにする。
 *介護保険制度を、保険料に頼る社会保険方式から税を主たる財源とする方式に組み換えていく。税金の投入を増やし、介護保険料を引き下げる。

6 介護保険法で規定する内容は全国規模で統一が必要なもののみに限定し、介護サービスは事業主体である市区町村が地域特性にあった制度設計ができるようにする。

7 当事者主権の立場に立って、個々人のニーズと生活実態に応じた介助サービスを保障し、障がい者が自分らしく生きることがでみるようにする。
 *障がい当事者の発言権・拒否権を保障し、個々人の要求と生活実態に応じた介助サービスを提供する。
 *「障害者自立支援法」における「応益負担」の原則と「障害程度区分」をなくす。

8 働き方の多様化と多様な保育サービスで、安心して子どもを生み育てる仕組みをつくる。
 *男性が家事・育児に積極的に参加し、女性の負担を減らし、育児と仕事が両立できる仕組みをつくる。労働時間の抜本的な短縮、短時間正社員制度の導入、育児休業におけるパパ・クォータ制の導入を企業に義務づける。
 *所得制限なしの子ども手当を復活し、1人当たり月2.6万円を支給する。支給対象を20歳まで拡大し、ベーシック・インカム導入までの過渡的政策として「若者基礎年金」を創設する。
 *経費節減の「幼保一体化」ではなく、0~3歳児を中心にした保育サービスを、待機児童をなくす。
 *保育労働者の賃金を引き上げ、待遇を改善して、人材を確保する。

9 低家賃の公営住宅の増大、低所得者への家賃補助などによって、住まいの権利を保障する。
 *「持ち家」制度から転換し、低家賃の公営住宅を増やす。低所得者への家賃補助を行なう。
 *地方自治体が空き家の利用と管理を行ない、住まいのない人に提供する。

10 社会保障を世帯単位の制度からシングル単位の制度に変える。
 *専業主婦を優遇する配偶者控除や第3号被保険者制度はなくす。
 *健康保険制度を世帯単位からシングル単位に変える。

公正な税制で借金を増やさず、所得再分配を強める

11 八ツ場ダムなど不要な公共事業の中止、天下りの根絶、公務員の給与体系の改革、軍事費の大幅削減によって、ムダな財政支出を減らす。
 *八ツ場ダム、整備新幹線、東京外環道など不要な公共事業をストップする。
 *天下りを根絶する。
 *公務員の給与体系を改革する。国家公務員の給与は、零細企業を含む民間労働者の給与に準拠して決める。地方公務員の給与は、国家公務員給与に準拠することをやめ、地元の民間給与に準拠して決める。地方公務員の数を増やすため、正規公務員の賃金を引き下げ、非正規職員の賃金を引き上げる「分かち合い」を促進する。
 *5兆円の軍事費を大幅に削減する。

12 特別会計を抜本的に改革する


 *特別会計を廃止して、一般会計に組み入れる。その上で年金特別会計など必要なものを社会保障基金などの形で維持する。
 *とりあえず、剰余金は、積立金への積立や翌年度繰り入れを行わず、一般会計に繰り入れる。

13 所得税の累進性や相続税・金融課税の強化など富裕層への課税を強化し、所得再分配を強める。
 *所得税の最高税率を元の70%に引き上げ、累進性を強化する。 *証券優遇税制を直ちに廃止し、株式の売却益など金融所得を総合課税に組み入れる。
 *相続税の最高税率を70%に戻す。
 *1億円以上の金融資産を有する人に富裕税を課す。

 14 法人税率は引き下げず、租税特別措置を廃止し、グローバル企業への課税を強化する。
 *法人税率は引き下げず、租税特別措置の廃止や欠損金の繰り越し控除制度の縮小によって課税ベースを拡大する。
 *「法人間配当無税」をやめ、企業が株式の相互持ち合いから受け取る配当金に課税する。
 *宗教法人に1%の低率課税を行なう。

 15 国際的な金融取り引きに課税し、マネーゲームを抑える。
 *金融取引税や通貨取引税を導入する。
 *法人税の引き下げ競争にストップをかける国際的な合意をつくる。
 *国際的監視の下で、タックス・ヘイブンの閉鎖を実行する。

 16 環境税を本格的に導入する。
 *石油石炭税の引き上げだけでなく、ガソリン税の引き上げによって実効ある環境税とする。
 *環境負荷の高い商品・包装などに環境税を課し、資源浪費や環境破壊を減らす。

17 現時点での消費税率引き上げはしない。財政改革をすべて行なった上で、どうしても税率引き上げが必要とされる場合には、食料品や生活用品への軽減税率、給付付き税額控除の導入による逆進性解消や中小零細企業の負担軽減が前提となる。
 *増税をもっぱら消費増税に求めることに反対する。
 *ムダな財政支出の削減、特別会計の抜本的改革、不公正な税制の改革(上記の13~17)をすべて行なった上で、財源不足を補うために消費税率の引き上げが必要かどうかを検討し決定する。
 *消費税率の引き上げは、食料品や生活用品への軽減税率の導入、給付付き税額控除の導入による逆進性の解消措置、下請け企業をはじめ中小零細企業の負担軽減が前提である。
 *輸出に際しての税の還付(戻し)は、グローバル企業を潤すだけであり、廃止を検討する。

 18 国から地方への財源移譲を思い切って進め、地方自治体が住民参加によって住民のニーズに応じたサービスを提供する。
 *補助金制度はむろんのこと、地方交付税制度についても抜本的に検討し、地方自治体が決定権をもつ財政調整制度について、今後検討し提案する。