【論説】「原子力損害の賠償に関する法律」改正にあたって-福島の被害に寄り添い…

【論説】「原子力損害の賠償に関する法律」改正にあたって
   -福島の被害に寄り添い、二度と繰り返さない賠償法制を-

                        2018年12月3日
                緑の党グリーンズジャパン運営委員会

 

 11月22日、衆議院本会議で「原子力損害の賠償に関する法律」(以下「原賠法」)の改正案が可決されました。来年末に迫っていた補償契約の新規締結や原子力事業者への政府補償の適用期限を10年延長することなど4点を盛り込むものです。

 この法案においては、無過失責任(被害者は電力会社の過失を立証しなくてよい)を過失責任(被害者は電力会社の過失を立証する必要がある)とする、あるいは無限責任(賠償額に上限を設けない)を有限責任(賠償額に上限を設ける)とする改悪など、経済界や自民党の一部の要求は、さすがに盛り込まれませんでした。これ自体は、東京電力福島原発事故の被害者をはじめ、被害回復や再発防止を求める多くの世論を受けた当然の対応だと言えます。しかし今回の改正案は、被害回復や再発防止という点から見るとあまりにも不十分であり、私たちは、以下の改正を強く求めます。

 まず、原賠法第1条の目的規定から、「原子力の健全な発展」を削除すべきです。原賠法は原子力が「夢のエネルギー」と唱えられていた導入期に制定されたものですが、現在、原子力発電は斜陽産業となり、事故による甚大な被害や影響も明らかになっています。このような時代遅れの規定は削除し、原賠法を「被害者の保護」に特化した法律とする必要があります。

 次に、第4条1項のメーカー免責条項を削除する必要があります。これによって原発メーカーのモラルハザードが引き起こされ、例えば「3.11」以前、東電は当然想定すべき貞観地震規模の地震の想定を怠っていました。メーカー免責条項が福島原発事故を引き起こしたと言っても過言ではありません。再発防止のため、このような規定は削除する必要があります。

 また、第8条の責任補償契約に関連して、現行の1200億円という保険料額を大幅に引き上げる必要があります。福島原発事故の被害額は、少なくとも10兆円以上に上ります。1200億円では桁が2つ違います。仮に民間の保険会社が引き受けないというのなら、原発を運転させようとする電力会社に基金を拠出させるべきです。

 そして、特に喫緊の課題として、近年、東京電力が原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」)の和解勧告に従わず、被害回復が著しく損なわれる事例が急増しています。このような事態を防ぐため、原紛センターの和解勧告に、東京電力を法的に拘束する効力(以下「片面的拘束力」)を持たせる必要があります。例えば、金融商品取引法156条の44は金融商品に関する紛争を解決するための指定紛争解決機関について規定していますが、同条2項5号は紛争解決のために必要な特別調停案を作成し、理由を付して当事者に提示することができることを規定しており、この特別調停案を実効性あるものとするため、事業者が1ヶ月以内に訴訟提起しない限り、その案を受諾したものとみなしています(同法第156条の44第6項)。この規定にならい、原紛センターを立法趣旨に沿った実効力あるものとするため、調停案に片面的拘束力を持たせるべきです。

 立憲民主党は、原発メーカー免責を除いて、概ねこれらの視点を盛り込んだ改正案を提出し、他の野党も概ね賛成しましたが、残念ながら自民・公明両党により否決されてしまいました。しかし、私たち緑の党グリーンズジャパンは引き続き、すべての被害者の救済、そして再発防止のため、多くの市民や立憲野党と共に、実効性ある原賠法改正に向けて努力していきます。

 

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