【声明】弁護士資格を持つ与党幹部が「法の支配」を蔑ろにすることに抗議します

【声明】弁護士資格を持つ与党幹部が「法の支配」を蔑ろにすることに抗議します

2014年4月25日
緑の党法務・政策担当運営委員 弁護士 笠原一浩

 昨年8月9日、緑の党運営委員会は「集団的自衛権の行使ではなく、周辺諸国との協力を」https://greens.gr.jp/seimei/8503/ を公表しました。

 これは、法制局トップという一官僚の人事を変えることによって、実質的に戦争放棄を明言した憲法を変えてしまおうという安倍政権の動きを批判するとともに、外交・安全保障分野においても、多様な意見を交え、市民が参加した十分な議論を保証すること、そしてエコロジカルで持続可能な経済社会の構築を含めた、周辺諸国との協力作業が必要であることを改めて訴えたものです。私は、この声明の素案を担当しました。

 そしてこの春、自民党は砂川事件判決を「論拠」として、あたかも裁判所が集団的自衛権を認めたかのような「理論武装」を進めています。弁護士でもある私にとって、特に驚きを禁じ得ないのは、この「理論武装」が、弁護士資格を持つ高村正彦副総裁を中心に進められている点です。

 この裁判では、アメリカ軍が使用する立川飛行場の拡張工事に反対したデモ隊メンバーを刑事訴追する際の根拠法令である、刑事特別法(旧安保条約三条に基づく)の憲法9条適合性が争点となりました。一審判決が安保条約は憲法9条2項に違反するとして無罪を言い渡したのに対し、検察官が高裁に飛躍上告(高裁を経ずに直接最高裁に上告すること)したところ、最高裁は、戦力とは我が国自体の戦力をさし、また、安保条約は高度の政治性を有するものであって司法裁判所の審査には原則としてなじまないとして、一審判決を破棄・差し戻しました。

 ここで重要な事は、この判決において最高裁は、集団的自衛権が憲法9条のもとで認められるかについて、全く判断をしていないということです。しかも、安保条約についてすら、「司法裁判所の審査にはなじまない」として、憲法判断を回避しています。この判決が、集団的自衛権を合憲と判断したわけでないことは、あまりにも明白であり、とりわけ弁護士など法律家の間では、ほぼ争いのないことです。

 もちろん、最高裁判決も完全なものではなく(例えば砂川事件の審理過程においては、裁判官の独立など、様々な問題点が指摘されています)、また、判決の解釈についても様々な見解がありうるところです。しかし、民間の法律家ならともかく、与党幹部、すなわち立法権や行政権に強い影響力を行使しうる立場の人物が、一般的に定着した見解と著しく異なる判例解釈、それも著名な憲法判例の解釈を行うことは、最高裁に法律、命令、規則、処分の憲法適合性を審査する権限を与えた憲法81条の趣旨をないがしろにし、司法権の独立すら脅かしかねないものです。とりわけ、弁護士資格を持つ与党幹部が、そのような「判例解釈」を推進していることは、自らの職業をも貶める、あまりにも異常な事態です。

 特に弁護士資格を持つすべての国会議員に、改めて訴えます。いうまでもなく、それぞれが自分の信念、そして理念・政策を持つこと自体は、各人の当然の権利です。しかし、弁護士である以上、法の支配、立憲主義をおろそかにすることが決してないようにと。

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