【声明】東電刑事裁判・東京地裁の無罪判決-不当判決に抗議し指定弁護士の控訴を支持

 

【声明】東電刑事裁判・東京地裁の無罪判決
    -不当判決に抗議し、指定弁護士の控訴を支持します

 2019年10月1日
緑の党グリーンズジャパン運営委員会

  不注意により東京電力福島原発事故を起こし、多くの人々を死傷させたとして旧経営陣3被告(勝俣恒久元会長・武藤栄元副社長・武黒一郎元副社長)が強制起訴された裁判で、去る9月19日、東京地方裁判所は無罪判決を言い渡しました。そして昨日(9月30日)、検察役指定弁護士は「控訴による被告らの負担」も考慮した上で「判決をこのまま確定させることは、著しく正義に反する」として控訴を決定しました(註1)。

 この裁判では、津波の予見が可能だったこと、津波予測数値を「小さくできないか」と旧経営陣が現場に働きかけ、対策を先送りしたこと、他の電力会社の津波報告書も書き換えさせようとしたことなどが元社員などから生々しく証言され、これまで各事故調査委員会によっても明らかにされなかった多くの新事実も証拠として採用されました(註2)。これらを否定・無視した判決を受け入れられないのは当然であり、私たちも控訴を支持します。

 これまで、東京電力に対する民事の損害賠償請求のほとんどにおいて、国と東京電力の過失が認められています。今回の判決は、民事訴訟で認められた事実の多くを認めた上で、随所で「刑罰」「刑事責任」「罪の成立に必要な予見可能性」という言葉を使って、刑事事件における特殊性を強調して無罪を導き出しました。しかし、その論理にも多くの問題点があります。たとえば判決は「津波を予測できる可能性がまったくなかったとは言いがたい」とする一方で「原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」としています。しかし津波対策は運転を停止せずとも取り得たものであり、この論理は飛躍・破綻しています(註3)。また、「(当時は)絶対的安全性の確保までを前提としていなかった」として対策を取らなかったことも免罪していますが、一方で国も電力会社も「原発は5重の壁で守られている」「日本では重大事故は起こらない」として「安全神話」を垂れ流してきました。原発立地は、その安全神話を信じて原発を受け入れてきたのです。判決は、いわば「だまし討ち」を容認するものです。

 さらに、判決は他の電力会社や国も積極的対策を取っていなかったこと、そして旧経営陣が単に下から報告を受けるに過ぎない立場だったことを強調して被告たちの対応を擁護しています。だとすれば、国や電力業界の無策ぶりや東電の無責任体制が事故を招いたばかりか、この無罪判決をも導き出してしまったことになります。これでは、事故は繰り返され、そのたびに経営陣や幹部は免罪されることになります。死傷者が出るような原発事故の重大で深刻な影響を考えれば、被害者への十分な救済と賠償を可能とする原賠法の改正や、法人やその代表者の刑事責任を問えるような法制度の充実が必要です(註4)。

 私たちは、原告や指定弁護士、全ての支援者・関係者のみなさんの奮闘と努力に心から敬意を表し、仲間と共に控訴審への取り組みを支援します。そして今回の判決が、これまで民事訴訟で明確にされた国や東電の責任を消し去るものではないことをあらためて確認し、その責任を引き続き厳しく追及するとともに、国や東電に対し、原発事故の早期収束と環境回復、避難者や被災者への支援に全力で責任を果たすべきだと強く訴えます。



1)福島原発訴訟支援団HP「控訴が決まりました!」
 https://shien-dan.org/20190930-appeal/

2)同HP「検察調書が明らかにした新事実」 参照 https://shien-dan.org/level7-20190410/

3)島崎邦彦氏らがとりまとめた福島県沖での地震・津波発生を予測した「長期評価」を取り入れるよう自治体や他の電力会社から求められていた事実を認定しなかったことや、科学の専門家とは言い難い裁判所がこの「長期評価」の信頼性が十分ではなかったなどと軽々しく論じていることも重大な問題。

4)緑の党グリーンズジャパン運営委員会論説「原子力損害の賠償に関する法律」改正にあたって-福島の被害に寄り添い、二度と繰り返さない賠償法制を-(2016年12月3日) https://greens.gr.jp/seimei/24484/

 

PDF➡https://greens.gr.jp/uploads/2019/10/seimei20191001.pdf