【論説】旧優生保護法下で行われた不妊手術の違憲性を問う提訴-差別と偏見を正当化..

 

【論説】旧優生保護法下で行われた不妊手術の違憲性を問う提訴-差別と偏見を
     正当化する優生思想の根絶の必要性を市民社会も重く受け止めるべき

2018年2月27日

緑の党グリーンズジャパン運営委員会
文責:星川まり・中山均

 

 去る1月30日、仙台地裁において、強制的な優生手術を憲法違反として国を訴える初めての提訴がありました。
 この強制手術の根拠となった優生保護法は、1996年、「障害者差別にあたる」として母体保護法に改正され、ようやく不妊手術の規定は削除されました。その後98年、国連の自由権規約委員会は日本政府に「補償を受けるための必要な法的措置を取るよう」勧告し、2004年の参院厚生労働委員会で当時の厚労相も「補償の検討も考えたい」と発言しています。しかし実際には被害者に対する補償も謝罪もされていません。原告は国による放置を批判し、その過失を主張しています。

 遺伝子に優劣をつけ、差別と偏見を正当化する優生思想は、その原点をナチスドイツの断種法に遡るものです。しかし、強制手術は、単に戦前の「旧い思想」が残っていたことによるものではありません。
 「国民優生法」が制定されたのは1940年でしたが、戦後48年に制定された優生保護法下の優生手術は、ハンセン病や精神疾患や知的障害を含め、遺伝性のない疾患や障害を持つ人、そもそも疾患も障害もあるとは言えない人にまで対象が広げられ、49年から94年まで、16,500人(うち女性は68%)が被害を受けたという統計があります。そして旧厚生省の要請で自治体が目標を定め、件数を競い合っていたこと(※1)や、議会での議論が行政を後押ししていた事実(※2)も最近になって明るみになっています。また、優生手術を報告する自治体の記録には「(国民の素質の向上は)新しく起ち上り国力を復興し、明るい文化国家の建設を願う我が国においては最も肝要なものの一つ」と明記され、対象者の家族の病歴や犯罪歴、家庭環境、「乱れた生活」を記述したものもありました(※3)。

 優生思想は、まさに「国力を復興し、明るい文化国家の建設」と表裏一体のものとして、戦後日本社会の経済成長と社会保障制度の整備に伴い、障害児・者に対する福祉施策に費やされる社会的コストを下げるため、「心身障害発生の予防」に力点が置かれて定着していったものなのです。こうした思想は優生保護法だけではなく、1970年に成立した「心身障害者対策基本法」などにも反映されています(※4)。
 政府の責任は厳しく問われなければなりません。そして十分な調査・補償が必要です。それだけではなく、こうした思想に基づく法制度と強制手術を容認・放置し、直接・間接的に加担した医学会、法曹界、自治体、そして社会全体の責任も問われなければなりません。2016年に起きた相模原の「津久井やまゆり園」の障がい者殺傷事件は、その文脈の中でとらえられなければなりません。

 私たち緑の党は基本政策の中で「性と生殖に関する健康・権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」、すなわち「あらゆる人が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力を持ち、子どもを持つか持たないか、いつ持つか、何人持つかを決める自由を持つ」ことを主張しています。そしてもちろん、あらゆる差別撤廃を求めて包括的な「差別禁止法」の制定も提言しています。

 自らの人生を容赦なく踏みにじられた被害者の尊厳を復活し、多くの被害者が声を出せるように、緑の党はこれからの訴訟と被害者の救済を支持します。優生という概念が持つ、不寛容とナショナリズムを根絶し、その背景にある「国や経済の発展」の価値観を問い直し、多様性と人権を尊重する国際社会と市民とつながり、ともに歩みます。

 


1)2月16日付毎日新聞記事:「強制不妊手術『千件突破』冊子で功績強調 最多の北海道」

https://mainichi.jp/articles/20180217/k00/00m/040/147000c

2)2月22日付毎日新聞記事:「不妊強制 優生手術、県議要求で急増 宮城・60年代、行政と連携」
https://mainichi.jp/articles/20180212/ddm/001/040/193000c

3)ワセダクロニクル:「【強制不妊】厚生省の要請で自治体が件数競い合い、最多の北海道は『千人突破記念誌』発行」
http://www.wasedachronicle.org/articles/importance-of-life/d1/

4)この法律では、すべての心身障害者が「個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と謳われる一方、「障害の『発生』の原因となる傷病の早期発見・早期治療を推進する国や地方公共団体の責務が規定され、福祉政策よりも「予防」が先に置かれた。
93年に「障害者基本法」に改正され、「予防」の項は残るものの、位置付けが相対的に低くなるとともに、障害の「発生」という表現は差別的だとされ削除された。

 

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